評価 ★★★☆☆(59点) 全12話
あらすじ 悪魔と呼ばれる存在が日常に蔓延る世界。少年デンジは死んだ父の借金を返すべく、「チェンソーの悪魔」であるポチタと引用- Wikipedia
解釈違いの湿気った花火
原作は週刊少年ジャンプで連載していた漫画作品。
監督は中山竜、制作はMAPPA
淡々
1輪冒頭、やや淡々としている。
主人公が夢の中で「ドア」を開けようとする様子を
主観映像で映し、目がさめた彼が仕事に出かける。
この1話冒頭はかなり「主観映像」を多用しており、
独特な雰囲気を醸し出している。
ただ、どこかパッとしない感じだ。
主人公である「デンジ」のどこか気怠い雰囲気、
彼が自分の臓器を売りながらポチタという犬のような存在とともに
「デビルハンター」という仕事をしていることはわかる。
ポチタをチェンソーとして悪魔と戦う。
そんな設定なのはわかるものの、
肝心の最初の戦闘シーンは結果のみの描写だ。
そのせいで1話の冒頭のインパクトとしては
かなり弱く、いまいちパッとしない。
1話は淡々と丁寧に主人公である「デンジ」を描いている印象だ。
彼がどんな性格で、どんな境遇にいるのか。
お金のためならば彼は100円で「タバコ」だって食べる。
それを嫌とも思わずに、どこか諦めている。
毎日のように生のパンをバターもジャムすら塗らずに食べる。
それが自分自身の限界であり、それ以上は望まない。
望んでも彼は手に入らないということはわかっている。
だからこそ、手を伸ばすことすら彼はしない。
だが、一人ではない。
彼は子供のときに「ポチタ」という悪魔と出会っている。
両親をなくし、たったひとりになってしまった彼の目の前に現れた
ポチタとともに暮らしている
何も望まない、だが死にたくはない。
彼の寿命も残りわずかだ。
臓器を売り、心臓の病気を持つ彼の寿命はもう長くはない。
「夢くらい見させてほしい」
そんな思いすらかなわない主人公である
「デンジ」は独特の魅力がある。
だが、そんな彼は1話で裏切られバラバラにされてしまう。
契約
死の間際、彼はポチタと契約する。
彼の心臓をもらい、デンジの夢を見せるという契約をし、
彼は「チェンソーマン」となる。
どこか諦めていた人生の彼が「死」を味わったことで
何かを望むようになる。
誰かの夢や希望の犠牲になってしまった彼、
夢や希望の犠牲になってしまったからこそ彼は夢や希望を諦めていた。
しかし、誰かの夢や希望のせいで自分自身の命すら奪われる。
なら自分も「奪っても」いいのではないか。
「掴み取っても」いいのではないか。
些細な幸せを、夢を、希望をいだいてもいいのではないだろうか。
「チェンソーマン」となった彼は本能を爆発させる。
両腕と頭に生えたチェンソーをフル回転し、敵を切り刻む。
戦闘シーンはCGを使っているものの、
いわゆるセルルックを使って描かれており、
MAPPAらしいヌルヌルとした動きと大胆なカメラワーク、
そしてドロドロと拭き散らす血液が蠱惑的な魅力を醸し出している。
借金取りに殺された彼は借金取りを殺すことで
己の「借金」と「過去」を精算する。
借金をなくすという希望を彼は叶え、
そんな彼の目の前にデビルハンターの女性が現れる。
傷ついた彼を抱きしめ、彼に問いかける。
自分に殺されるか、飼われるか。
もちろん餌も与えてくれる。
「毎朝、食パンにジャムを塗ったパン」を食べさせてくれる。
彼の些細な夢が、掴み取ろうと思ったらすぐに手に入る。
ある意味、この時点で彼の欲望の殆どはかなっている。
ポチタと幸せに暮らすことは叶わなかった。
だが、借金をなくし、毎日ご飯を食べられる環境を手に入れ、
美人なお姉さんに優しくしてもらえる(笑)
人としては最低限の幸せと、彼にとっての最高の幸せが
1話の時点で彼は掴み取っている。
マキマ
彼の目の前に現れた女性は蠱惑的だ。
見ず知らずのデンジを飼い、彼に優しくしてくれる。
最低限の幸せは手に入れた、ポチタも彼の心臓として生きている。
そんな最低限の幸せを手に入れたからこそ、欲望が生まれる。
人の欲望は罪深い、1度味わってしまえばもっと深い欲に溺れる。
「デンジ」も同じだ。
マキマという女性に優しくされ、美人な彼女に見惚れ、
あげく彼女はデンジのような男性が好きだと言ってくる始末だ。
彼女とそういうことをしたい、男としての本能という名の欲望を
彼は手に入れたいと思う。
悪魔でありながら人間。そんな特別な彼の存在は異質だ。
異質ゆえに他のデビルハンターからはどこか嫌悪されている。
多くの人間は悪魔に殺されている。本来は悪魔は敵だ。
だが、彼にとっては悪魔の全ては悪ではない。
同僚である「早川アキ」や多くの人と出会うことで、
彼は自分の中の希望を見つける。
「胸」を揉む。それが彼の希望だ(笑)
上司であるマキマの胸でも良い、
同僚であり魔神であるパワーの胸でも良い。
とにかく胸をもみたい。
そのためならば彼は何でもする。
抑揚
ただ、いまいちパッとしないのは変わらない。
作品全体が暗く、重苦しい雰囲気が常に漂っており、テンポ感もやや悪い。
常に淡々と粛々と描かれてしまっているせいで
決定的なシーンすらも「さらっ」と流すように描いている。
序盤の3話のパワーという彼の同僚が自らの欲望のために
彼を裏切るという決定的なシーンが有る。
また裏切られた、そんな主人公の決定的なシーンのはずなのに
さらっと描いている。一言で言えば抑揚がない感じだ。
パワーの裏切りにあったデンジはコウモリの悪魔に捕まり、
コウモリの悪魔に握りつぶされて血をすすられる。
原作ではこのシーンでデンジは「ギャアアア!」と叫んでいる。
直前にコウモリの悪魔は彼に「食事が吠えるな」と言ってるのにも関わらず
吠えるように叫んでいる。
それがアニメではなぜか咳き込んでいるだけだ。
ちょっとした改変ではあるものの、
そのちょっとした改変がずいぶんと見ている側の印象を変えてしまう。
作画のクォリティは素晴らしく、戦闘シーンもよく動く。
だがキャラクターたちの「テンション」や
ストーリーのテンポ感をわざと押さえつけているような違和感を感じてしまう。
そのせいで描かれてる内容は面白く、作画のクォリティは良いのに
どこか煮え切らない。
そういう意味で3話はいろいろな意味でわかりやすい。
戦闘シーンが始まり、デンジがチェンソーマンに変身する。
盛り上がりどころでテンションが上りかけたところで
何故か戦闘の領域のビルの中にいるOLの女性が部屋に入ってくるシーンが
挟み込まれる。
そんなシーンのあとにチェンソーマンが突っ込んでくる。
これも余計なことをしている。
原作では変身しコウモリの悪魔の片翼を切り裂き、
そこから流れるようにビルに突っ込んだチェンソーマンと
それに驚くOLというシーンになっているのだが、
なぜかOLが部屋に入ってくるシーンを入れてしまっていることで
流れるようなシーンになっていない。
わざとかのように見ている側のテンションを上げさせてくれない。
戦闘シーンが素直に描かれれば面白い。
だが、そんな戦闘シーンの中で無駄なカットやカメラワークが多い。
デンジが悪魔と戦い、苦戦してる状況で、
「まだひともみもしてないんだよ!」と叫ぶ。
そのシーンは素晴らしく、叫ぶ構図も素晴らしい。
だが、まだ叫んでる最中に何故かカメラをひいてしまう。
せっかく叫ぶシーンで見てる側のテンションが上ったのに、
挙げさせてたまるかと言わんばかりに引きの絵を差し込んでいる。
冷水をぶっかけられるような感覚に常になってしまう。
カメラをひく行為はシーンの全体を見せたかったり、
作品によっては「作画」をごまかすためでもある。
だが、3話のこのシーンは別に作画をごまかす必要性もなく、
全体を見せる必要もない。
アップのままでいいのになぜか引く、意味不明だ。
日常シーンがどこか淡々としてドライなのはそこまで気にならない。
だが戦闘シーンまでそれを持ち込んでいるのは理解ができない。
日常シーンがどこか淡々としつつドライでも、
戦闘シーンがハイテンションに描かれることで、
抑圧と解放が生まれるのに、その解放をこの作品はなかなかさせてくれず
どこかフラストレーションが溜まってしまう
解放
ただ、そんな3話の戦闘シーンから4話の戦闘シーンは素晴らしい。
血が足りずにチェンソーマンに完全に変身できない中で、
「胸を揉む」ためにヒルの悪魔と戦うシーンは本当に素晴らしい。
あっさりと吹き飛ぶ片腕、グリグリと動くカメラワーク、流れ続ける血液、
そして「早川アキ」の「狐」のシーンでケリをつける。
戦闘シーンの始まりから終わりまでの抑揚が
本当に気持ちよく描かれており、
思わず「これだよこれ!」と叫びたくなるような戦闘シーンだ。
そんな戦闘シーンのあとにまた日常が描かれる。
デンジの同居人である「早川アキ」の謎の日常シーンは
やや笑ってしまうが、「パワー」がそこに加わることで
ギャグ要素も強くなり日常パートのドライさが減り、
更に彼女の「胸を揉む」シーンもエロスを感じる描写だ。
毎話、作画のクォリティは本当に素晴らしいのだが
「演出」の振れ幅が異様にある。
「チェンソーマン」は原作ファンも多く、
アニメに対する期待度も高かった作品だ。
それゆえにファンのハードルも高い。
ファンとしては「120点」のクォリティを求めているのに、
80点になったかとおもえば90点になり、
60点になったかと思えば100点になる。
演出のクォリティの振れ幅が異様にあるため、どこか煮え切らない印象だ。
銃の悪魔
この作品の世界における「悪魔」は人間の恐怖から生まれている。
人間がそれを恐れれば恐れるほど対象の悪魔の力は強くなる。
「銃の悪魔」はその代表的なものだ。
簡単に人を殺せる銃。そんな銃は人に恐怖心をいただかせる。
デビルハンターたちの多くは災害めいた事件を起こした銃の悪魔を探している。
デンジには無関係ではあるものの、彼は「マキマ」さんに
なんでもお願いを1つ叶えてもらうために銃の悪魔を倒すことを
目標としている(笑)
一歩間違えばあっさりと人が死ぬ。
そんな世界で主人公が欲望に忠実なのがこの作品の魅力でもある。
銃の悪魔に家族を殺された「早川アキ」は復讐に生きている。
そのためならば彼はすべてを犠牲にし、己の寿命すら削っている。
胸をもみたいという主人公であるデンジとは真逆のようなキャラだ。
だが、同じ「欲望」と「夢」を抱いている。
そんなデンジと早川アキとパワー、この3人の関係性が
ちぐはぐなようでつながっていく。
死
中盤で悪魔によって閉鎖空間にとらわれる。
デンジを悪魔に捧げればみんなが助かる、
そんな状況でデンジを殺そうとするものも現れる。
しかし、そんな彼を「早川アキ」がかばい、パワーが助けようとする。
自分の欲望に生きていた3人が誰かのために自分を犠牲にする。
日常も、友も、愛も、何もなかったデンジが少しずつ
「幸せ」という「人とのつながり」を手に入れていく過程が
丁寧に描かれている。
序盤ほど演出面で気になるところは少なくなっていくものの、
それでも気になるところはちょこちょことある。
特に「キャラクターの声」の音量はどうにかならないのか?と思うほど、
ボソボソとした喋りになっているシーンが多く、
台詞が聞き取りにくいシーンが目立っている。
特に「津田健次郎」さんが演ずるキャラは
キャラクターの喋り方と津田健次郎さんの声もあいまってかなり聞き取りにくい。
暗いシーンはより暗く、キャラクターのぼそっとした喋りはよりぼそっと。
そのせいで見づらく、聞こえづらいシーンが生まれてしまっている。
7話の閉鎖空間に閉じ込められ無限に増殖する悪魔との戦闘シーンの際も、
かなり暗くなってしまっており、悪魔の「声」も驚くほど聞こえない。
この手の演出は邦画などでよく見られるものだが、
なぜかこの作品はそれを取り入れている印象だ。
序盤から謎の主観映像も多く、それがあまり意味を持ってない。
謎のカメラワークや謎の演出、カット割り、台詞の聞こえづらさなど
序盤から中盤の欠点は中盤以降から減っていくものの、
この主観映像だけは残り続ける。
サムライソード
その違和感こそあるものの逆に言えば中盤からはしっかりと盛り上がる。
特に「サムライソード」戦は素晴らしい出来栄えだ。
自分を友だちといってくれたものが死に、
多くの仲間が傷つく中で「デンジ」はチェンソーマンとして戦う。
序盤から中盤はBGMもいまいちスッキリとしたものがなかったのだが、
サムライソード戦のBGMはしっかりと盛り上がるものになっており、
余計な引きやカットもなく、盛り上がる戦闘シーンが描かれている。
中盤からようやく素直にテンションを上げさせてくれる。
特に「マキマ」さんの能力の描写は素晴らしく、
淡々と次々とどんどんと人が死んでいくさまは
悪魔的な爽快感すら生まれている。
序盤から中盤までの怪しげな彼女の魅力、
その怪しさに「怖さ」が内包される。
更にデンジの同僚であり、中盤では怯えてばかりだった
「コベニ」の戦闘シーンの描写も素晴らしく、
弱そうに見えた彼女の戦闘シーン、悪魔と戦うことに恐怖しながらも
家族のために、お金のために戦う彼女の性格とキャラクターの魅力も
素晴らしいまでに感じさせてくれる。
まるで湿気った花火に何度も火をつけていたら、
ようやく火がついて火花を散らすような9話は印象的だ。
1クール
そういった火がつくのが遅い部分が強く、
話的にもここからもっと盛り上がるというところで
1クールが終わってしまう。非常にもったいない作品だ。
ストーリー構成的にも各話、中途半端なところで切られるところも多く、
1クールというストーリー構成の制限のせいで
ストーリー構成も微妙になってしまっている。
これが2クールか3クールくらいで一気に原作の最終話くらいまで
描かれていれば印象も違っただろう。
序盤から中盤までの煮えきらなさも、
2クール構成だったら気にならなかったかもしれない。
終盤は演出面での微妙さも感じずらく、
ハイクォリティな戦闘シーンをスピーディーに見せており、
両腕を失いながらも「頭」のチェンソーだけで戦うかっこよさ、
BGMの良さなども極まって、最終話は魅せるところをきっちりと魅せている。
物語的にはいろいろな謎を残しつつ終わってしまっている。
当然のごとく2期などをやるのはわかっているものの、
1クールではなく2クールで見たかったと感じる作品だった。
総評:なぜ初監督にやらせた…
全体的にこの作品が監督にとって「初監督」であることを
如実に感じてしまう作品だった。
特に序盤から中盤までは謎演出、謎カメラワーク、謎カットが多く、
そのせいで見ている側のテンションも上がりきらず、
どうにも煮え切らない感じになってしまっている。
しかし、序盤を過ぎ中盤あたりからその煮えきらなさがなくなり、
最終話の戦闘シーンはきっちりと盛り上がっている。
1話からこのクォリティで、この演出で描かれていれば
印象もずいぶん違ったはずだ。
監督自身の「成長」を感じるものの、
逆に言えばなぜ「初監督」にチェンソーマンという
原作人気が高い作品を任せてしまったのか謎でしか無い。
原作ファンからのハードルも高く、そのハードルを超えない話が多い。
もっと実績のある監督に任せれば違ったかもしれない。
そう感じてしまう作品だ。
ストーリー的には序盤であり、ここから話も盛り上がってくる。
それだけに1クールではなく、同じジャンプ作品の鬼滅の刃や
呪術廻戦のように2クールで魅せてほしかったと感じるところだ。
終盤は演出面も気になるところが減っていっただけに、
2クール構成ならば2クール目からはそういった批判も上がらなかっただろう。
2期になるのか映画になるのかはわからないものの、
続編ではもっと「狂気」がほしいところだ。
個人的な感想:原作
個人的に珍しく原作を読んでいた作品であり、
それゆえにどうにも「解釈違い」を起こしやすい作品だった。
もう少しテンション高く言ってほしい台詞が抑えられていたり、
じっくりと見たいシーンがさらっと流されたりと、
こちらの期待という頭を常に押さえつけられながら見ている感覚だった。
中盤、特に終盤はその押さえつけが解き放たれている感じがあったものの、
序盤から中盤までの煮えきらなさはどうにも飲み込み難いものがあった。
製作委員会制度を取っておらず、
かなり気合を入れて作られているのは見ていてしっかりと伝わるものの、
DVDなどの売上もあまり伸びていないのがわかってしまう作品だった。
2期や映画などの続編展開はもちろんあると思うが、
この1期の煮えきらなさを解消してくれることを期待したい。
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BLEACH千年決戦編のアニメのレビューもお願い致します
もうちょい頑張って欲しかった
最初は微妙だと思ったけど原作と分けてアニメはアニメとして見たらめちゃくちゃおもろかった