日常

「スローループ」レビュー

4.0
日常
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評価 ★★★★☆(60点) 全12話

TVアニメ「スローループ」PV第2弾

あらすじ 3年前にポピュラーな病気でこの世を去った父親から学んだフライフィッシングで今日も1人海辺で釣りをする少女・ひより。引用- Wikipedia

釣りはおまけ

原作はまんがタイムきららフォワードで連載中の漫画作品。
監督は秋田谷典昭、制作はCONNECT
いわゆるきらら系アニメだ。

それしか知らない

1話冒頭からどこか「重さ」を感じさせる。
主人公である「ひより」は父を3年前になくしており、
そんな父に影をおうように一人寂しく釣りをしている。
どこか影のあり、薄暗さを感じさせる主人公は
「きらら」っぽさをあまり感じさせない。

だが、そんな重さを吹き飛ばすのが「小春」という存在だ。
海釣りをしている主人公の前にいきなり現れるやいなや、
服を脱ぎ、スク水姿で3月の海に入ろうとする。
ややぶっ飛んだキャラクター描写と明るい小春というキャラが
冒頭の重さを吹き飛ばし、「きらら」らしさを感じさてくれる。

きららっぽさをあまり感じさせない主人公と、
そんな陰鬱な主人公の雰囲気を飛ばす「小春」という存在。
ボーイミーツガールならぬ、ガールミーツガールな始まりは
ベタでは有るものの導入としては自然だ。

この作品はどこか言い方は悪いが「辛気臭さ」がある。
小春が青空のように明るい行動や台詞を言っても、
父を失った主人公の重さと影が辛気臭さを生む。

父に教わったフライフィッシング、それ以外を教わらなかったからこそ
彼女はそれしか釣りのやり方を知らない。
「お父さんから教わったから」
彼女は頻繁にその言葉を繰り返す。まだ子供な彼女にとって
父の存在は大きかった。

そんな父から教わった唯一のことを誰かに教える。
主人公にとって「世界」が広がった瞬間だ。
些細なそんな瞬間、日常の中でのちょっとした変化。
魚の食べ方は刺し身にすることくらいしか父に教わらなかった。
だからこそ彼女はそれしか知らない。

そんな彼女に「小春」は新しいことを教えてくれる。
新しい料理の仕方、そんなちょっとしたこと。
料理だけではない、新しい「家族」との絆も彼女と手に入れる。
母の再婚相手の子供、父の再婚相手の子供。
偶然の出会いが、父しか知らなかった世界を広げてくれる。

再婚した母と、新しい家族。
彼女の世界の変化、父の存在に縛られていた彼女の価値観が徐々に変わっていく。
彼女は子供では有る、だが、大人な考え方をしている。
新しい父に気を使わせないようにしている。

だが、そんな大人な考えをしている主人公に
「小春」はまっすぐとぶつかっていく。
彼女の思っていることを釣り上げるように、やや強引さは有るが、
ストレートに向き合うからこそ主人公も変化していく

フライフィッシング

ただ、本筋である「フライフィッシング」の描写に関してはいまいちだ。
「フライフィッシング」という手法を解説しようとしているのは分かるが、
それが面白さにはなっておらず、ただただ解説しているだけに過ぎない。
釣りのシーンの作画の良さ、アニメーションとしての面白さを感じる部分も少なく、
簡略化されたシーンも非常に多い。

特に頻繁に挟まれるデフォルメ描写。
あまり作画の予算がないからこそのデフォルメ描写による簡略化なのはわかるが、
調理シーンや止め絵をスライドショー形式で入れ替えるだけのシーンも多く、
釣りの手法の解説シーンもデフォルメキャラで描かれることが多い。

そのせいもあってか解説されても頭に入らず、
「フライフィッシング」への興味ややってみたいという気持ちにはさせてくれない。
はっきりいってしまえば「釣り」である必要性をあまり感じない。
キャンプの描写も多いせいか、別に釣りじゃなくとも他の趣味でも
この作品で描きたいことは描ける。

淡々と描かれる釣りの描写がこの作品だからこその面白さや魅力を感じず、
どちらかといえばこの作品で描きたいのは
父を失った主人公や彼女の周りのキャラの変化と成長であり、
釣りはその道具でしか無い。
父を失った少女と、その友人と、新しい家族。
そんな人間ドラマが主体の作品だ。

重っ

序盤は特に重い。主人公は父をなくしているが、
「小春」は小さい頃に父と幼い弟を交通事故でなくしている。
さらっと語られるキャラクターのバックボーンが妙に重い。
主人公の母も旦那の三回忌が終わったとは言え、
大きな娘が居るのにも関わらず再婚している。

主人公の幼馴染であり友人の「恋」も
3人の弟を抱えながらも父は釣りバカであり、
代わりに釣具店の店番をしており、母は海外勤務と
メインキャラの家庭は何かしら抱えている。

そのあたりを掘り下げると主人公の母の再婚の速さやなど
色々と闇の深さも出てきそうだが、深くは掘り下げない。
「小春」も父と二人、寂しさを感じる暮らしをずっとしてきたことは匂わせている。
だが、そこをガッツリとは掘り下げずに匂わせるだけにとどめ、
「今」の家族とのあり方、幸せを噛み締めている。

中盤になると主人公も変化してくる。
人見知りで人と関わることが苦手だった少女が、
少女に出会い、新しい世界を知り、新しい家族の形に馴染んだことで
誰かに自分と同じような気持ちを、自分の世界を教えようとする。

丁寧な日常描写とキャラクターの成長と変化を、
ゆっくりとだがおそすぎず、ときに重い家庭環境を匂わせながら
進む物語が染み渡る。
不器用な少女が不器用な祖父とかかわり合い、両親の再婚を祝い、
「いい子でいよう」とした少女が弱音を言う。

「家族」という血の繋がりだけではない繋がりが
徐々に生まれ彼女たちだからこその「家族」という形になっていく。

「頼りにしてるよ、お姉ちゃん」

些細な一言が、溢れるような台詞が見ている側の心をじんわりとさせてくれる。
設定は重い、だが「きらら」だからこその優しい世界が
キャラクターたちも見ている側も包み込んでいる。

友情

この作品はきらら系作品らしく男性キャラは少ない。
メインキャラで出ている男性のキャラはキャラクターたちの父親くらいだ。
だからといって「百合」というわけでもない、しかし、そこに愛はある。
あくまでもキャラクター同士の関係性は家族、もしくは友人だ。
終盤になるとそんな友情のあり方も描かれる。

釣りが好きだった小学生の女の子、
しかし、女の子であるがゆえに「釣りが好き」とは友達には言えなかった。
クラスで浮いていることを自覚し、自覚しているからこそそれを隠し、
友達と付き合っていた。でも、それでは本当の友情は得られない。
相手の好きなものを受け入れ自分の好きなものを受け入れてもらう。
そんな二人の少女の拙い友情の物語。

幼馴染である少女の「1番」にはならないようにしている少女。
それは幼馴染への思いがあるゆえに、大事だからこそ
「1番」にはならないようにしてきた。
それでも友情は変わらない、1番や2番ではない、かけがえのないものだ。
新しい友達ができてもそれは変わらない。

家族、そして友達。
そこにある「愛情」を描いているような作品だった。

総評:「きらら」だからこその優しい世界

全体的にみて一歩間違えばとんでもなく重くなりそうな
設定を抱えているキャラクターは多いものの、
そんなキャラクターたちが「きらら」という媒体だからこその
優しい世界観の中で自分自身に向き合いながら新しい家族、
そして友達たちとの絆と愛情を育んでいくような作品だ。

エンタメとしてあまり派手な部分はない。
爆笑できるギャグも、号泣できるようなストーリー展開があるわけでもない。
しかし、ほどよく、どこか染み渡るようにしっとりと
変化していくキャラクター同士の関係性がこの作品の魅力であり、
そこにスパイスとして「フライフィッシング」という要素がたされている。

序盤の段階では重い設定のほうが目立ちこの作品の良さはあまり見えてこない。
デフォルメされたキャラのシーンや止め絵なスライドショーシーンなど
予算的にもあまり豊富ではない。
しかし、話が進みキャラ同士の関係性が変化してくる中盤から
この作品の魅力が見えてくる。

釣り、フライフィッシングでなくても良かったのでは?と
感じる部分はあるものの、きらら系アニメらしい魅力を
最終的にはしっかりと感じることができ、
1クールである程度話もまとまっている。

この手のジャンルのアニメは好みが分かれる部分はあり、
キャラも「萌え」なあざとさを若干感じるデザインだ。
「小春」のズケズケと突っ込んでくる性格や言動も
人によってはあまり好まれないかもしれない。

しかし、そんなカノジョと出会ったからこその主人公の変化や
小春の過去が描かれることでこの作品のキャラに愛着を持ち、
彼女たちの新しい家族としての形や友情がしっかりと描かれている作品だった。

個人的な感想:3話あたりから…

1話の時点ではあまりピンとこなかったが、
話が進んでくるとこの作品が描きたいことが明確になっていき
話が積み重なることでキャラの魅力も作品の面白さも
ましていくような作品だった。

原作の漫画はもともとキャンプ漫画をかくつもりだったが、
ゆるキャンの影響もあり釣り漫画に変更した経緯があるようで、
その片鱗を所々で感じる部分はある。
そのせいなのかどうかはわからないが、釣り要素はあくまでおまけ程度であり
家族愛や友情を芯に捉えた作品になっている

話的にはある程度、キャラが抱える問題は解決している。
1クールで物語がスッキリとまとまっており、
2期があってもなくても良いストーリー構成になっているのも
好感が持てる作品だった

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出演声優 久住 琳, 日岡なつみ, 嶺内ともみ

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