評価 ★★★★☆(65点) 全82分
あらすじ 巨人の両親を持ちながら体が小さく、剣すらまともに振れない非力な王子・ボッジ。引用- Wikipedia
令和に蘇る世界名作劇場
原作はマンガハックで連載中の漫画作品。
監督は八田洋介、制作はWIT STUDIO
なお、本レビューは「1話」のみを見たレビューとなります。
ランキング制度
淡い色合いで描かれる背景は昨今の流行りとは真逆だ。
最近のアニメ、特にアニメ映画の場合は「リアルな背景」が
ある種のブームになっている。
君の名はから始まったこの流れは確かに作品への没入感が生まれやすく、
背景がリアルであればあるほどその没入感も強いものになる。
だが、この作品はあえてそんなリアルさとは真逆だ。
まれで絵の具でぬったかのような、どこか懐かしいタッチの背景。
それはまるで絵本をめくるような感覚だ。
子供の頃に読んだ絵本を1ページ1ページゆっくりとめくるように、
自分が小さい時に絵本を夢中で母に読んで聞かせてもらった記憶が
ぼんやりと思い浮かぶような背景の描写は不思議な空気感が生まれている。
この作品の世界には王様の「ランキング」制度が存在する。
タイトル通りとも言える世界観、そんな説明がされた後に
描かれるのは裸の王様ならぬ、パンイチの王子様だ。
交流
そんな王子様は「影」と出会う、王子を脅し、金を要求する「影」。
だが、王子は「耳」も聞こえず、言葉も発することができない。
他人の言ってる言葉は口の動きを読み理解できるが
彼の言ってることは他人には聞き取れない。
しかし「影」は違う。彼の言葉がなぜだかわかる。
それは脅迫だ、脅迫で始まるボーイミーツガールならぬ
ボーイミーツシャドウ。
服を脅されて盗られたとしてもホッジは喜んでいる。
彼にとって、この作品の主人公である王子「ボッジ」にとって
唯一の理解者といってもいい。
初めてきちんと意思の疎通ができた影との交流。
それがたとえ脅迫だとしても、彼にとっては初めての出来事だ。
たとえ周囲にバカと呼ばれても、カゲにもバカにされても、
彼は常に笑顔を絶やさない。
他人の言ってることは口を見れば理解できるのに、
カゲの言ってることも理解できるのに、彼は笑顔だ。
無邪気な彼とカゲとの交流。
カゲにとっても初めて出会うタイプの相手だ。
最初はバカにし、脅迫した相手でしかなかったボッジ。
しかし、交流を重ねるうちにホッジとカゲには友情が生まれている。
強さ
国民のホッジに対する態度、彼の耳には届かぬ悪口、
届かないからこそ口に出す兵士たちの陰口をカゲが聞く。
彼の母ですら「王にはなれない」と彼の前で同等と宣言してしまう。
誰も彼が言葉を理解できていることを知らない。カゲ以外は。
彼の理解者は「カゲ」しかいない。
こんな状況なのに彼は「笑顔」を崩さない、泣かない、良い子だ。
どれだけバカにされても、どれだけ蔑まされても
他人の前では泣かない。
だが、一人になれば涙が溢れる。彼は「強く」あろうとしている。
自分が弱いと、バカにされていると分かっているからこそ、
彼はせめて「涙」だけは流さないように虚勢をはっている。
彼の一瞬の涙に、カゲも、見ている私達の胸も締め付けられてしまう。
偉大なる父と母
ボッジの父は偉大だ。巨人族であり、体も大きく力も強い。
国民に愛される「王」の鏡ではあるものの病を患っている。
ボッジの母は前の王妃であり亡くなってしまっている。
そんな偉大な父と母を持つボッジ。
父は自分の亡き後を憂い、ボッジに父として王として厳しく接する。
甘えられる母も居ない、王の後妻はいるものの、
王と後妻の間に生まれた優秀な弟もおり、ボッジの立場は弱い。
小さな子供には、障害を持つ子にはあまりにも辛い状況だ。
この極限にまで子どもが追い詰められてどうしようもない状況は
どこか「世界名作劇場」の作品の主人公を思い出す。
彼らもまた悲劇的な状況の中でそれでも生き抜こうと、
自らの存在意義を、何かをなそうとしていた。
そんな世界名作劇場の主人公達の背中を追うように、
ボッジも諦めない。たとえ絶対に勝てないとわかっていても、
彼は自分の力を、強さを示そうとする。
たとえ非力でも、自分になせることを、自分の力と強さを
彼はまっすぐに信じている。
そんな彼の物語が始まる。
総評:超骨太作品
全体的に見てまるで世界名作劇場の1話を見ているような作品だった。
不幸な状況の主人公、見ている側が思わず目を背け胸を締め付けられるような
状況にいる彼。
そんな彼の状況と世界観をしっかりと描きつつ、
そんな状況でも笑顔で、諦めない主人公の強さを1話でしっかりと描いている。
非常に骨太な作品だ。
この作品だからこその背景描写、そこから生まれる雰囲気と、
この世界で生きるキャラクター。
どっしりと身構えた骨太さを1つ1つの要素から感じる。
2クール作品だからこそ、1クール作品とは違う落ち着きのある1話。
だが、しっかりとした面白さと期待感を感じさせてくれる。
唯一の不満点を言うならばこの作品が「深夜アニメ」ということだ。
ノイタミナ枠らしいとも言える部分はあるものの、
どちらかといえば夕方や朝、NHKあたりで
子どもたちに向けてやってほしいとすら思ってしまう。
そういった意味ではどこか地味さは感じる部分はあり、
良い意味で深夜アニメらしくない。
しかし、壮大でどっしりと構えた骨太な1話は
ずしんと重みのある面白さを感じさせてくれる1話だった。
個人的な感想:久しぶりに
こういうアニメは久しぶりに見たなーという印象だ。
ドラえもんやクレヨンしんちゃん、
そういった子ども向けアニメとも違う、
「世界名作劇場」としか言えないような空気感。
深夜アニメでは味わえない空気感は
「ノイタミナ」枠らしいとも言えるが、やっぱり、
子どもにも見てほしいと感じる作品なだけに
ぜひNHKさんあたりで再放送という形でもいいので
検討してほしいところだ。
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