評価 (70点) 全101分話
あらすじ 人間たちには知られていないが、この世界には妖精と呼ばれる存在がいる。妖精は人間から正体を隠し、あるいは人里離れて暮らしている。引用- Wikipedia
これが今の中国アニメの最高峰
本作品は中国のWebアニメの劇場映画作品。
監督はMTJJ木頭、日本でも2019年9月に字幕で上映され、
2020年11月に吹替版として「ぼくが選ぶ未来」という
サブタイトルが付いて再上映されている。
なお、本レビューはネタバレも含みます。
森
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
映画は「森林伐採」のシーンから始まる。
森で平和に暮らしていた子猫の姿をした妖精「シャオヘイ」
そんな彼の居場所がなくなってしまう。
この冒頭のシーンの演出はあえて「人間」を描写していない。
小黒にとっては唐突で何が起きたかわからない。
いきなり木々が倒され住処を失う、そんな衝撃をあえて
人間を描写しないことでファンタジックに印象づけるシーンになっており
どこか「ジブリ」っぽさを感じる。
日本でも中国アニメは多く放映されているものの、
ほとんどが「低予算」かつ日本のアニメや漫画のテイスト感じるような、
言葉を濁さずに言えば二番煎じ、ストレートに言えばパクリのような
作品が多いと言わざる得ない。
しかし、この作品はパクリではない。パロディでもない。
日本のアニメに対する「リスペクト」や「オマージュ」を感じ、
造り手側がジブリが好きでジブリのような雰囲気を描きたかったんだなと
制作側の愛とアニメに対する情熱を冒頭からしっかりと感じる事ができる
特に背景の描写はこだわりを感じる。
森などの自然のシーンはジブリのように幻想的に描きつつ、
人が住む人工物のある町並みにはリアルに描くことで、
絵にメリハリが生まれ、妖精たちの場所である森と人間の場所である街の
雰囲気の描き分けがしっかりと生まれている。
キャラクターデザインはやや「縁」が濃ゆい感じはあるものの、
しっかりと可愛く、しっかりと「中国らしさ」を感じれられる服装や
雰囲気がしっかりとあり、中国アニメの魅力を感じられるような
背景とキャラクターデザインになっている。
冒頭の5分ほどのシーンでこの作品は他の中国アニメとは違う
ということを見てる側にしっかりと感じさせてくれる。
敵
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
主人公である「シャオヘイ」にとって人間は敵だ。幼い彼にとって
自分の居場所を奪い、街で暮らすしかなくなった人間は悪であり、
生きるために必死で人間の食べ物を奪い、人間から隠れ、
時には人間と戦わないといけない。
幼いながらも孤独に生き抜こうとしていた中で仲間が助けてくれる。
それが「フーシー」だ。
同じ妖精であり、シャオヘイよりも強く、大人で頼れる存在で、
自分が安心して暮らしていける場所を与えてくれた存在だ。
彼が子供らしく、時には猫の姿で、時にはヘンゲした人間の姿で
はしゃぐ様子が可愛らしく、演じている「花澤香菜」さんの演技も
あいまって、虚勢を張りながらも少し生意気でだけど子供らしい
「シャオヘイ」という主人公の魅力をしっかりと感じられる。
同じ妖精たちと平和に暮らし、ご飯を食べて、安心して眠れる。
彼にとってようやく手に入れた居場所だ。
居場所はこの作品のテーマでもある。
「シャオヘイ」という子供の妖精が自分で考えながら、
色々な出来事を経て居場所を手に入れる、この作品はそんな
ストーリーが軸に置かれている。
それと同時に描かれているのが「価値観」だ。
人間
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
だが、せっかく居場所を手に入れたのに人間がまた襲ってくる。
彼は「フーシー」を執拗に狙い、シャオヘイもまた必死に戦うものの
フーシーとは離れ離れになってしまう。
この辺りの展開は尺の都合上かやや急であり、もう少しシャオヘイと
フーシー達との交流や関係性の掘り下げの描写が
欲しかったと感じる部分もあり、見てる側の感覚としては
居場所を手に入れて5分後くらいに人間が襲ってくるため、
「フーシー」との関係性がやや希薄に感じてしまう。
人間である「ムゲン」に捕まったシャオヘイではあるものの、
ムゲンはまるでわがままな子供を扱うようにシャオヘイを扱い、
彼を館に連れて行こうと旅をする。
嫌いな人間との旅、なぜ自分を館に連れて行こうとするのか、
ムゲンの目的もわからず、フーシーを襲った人間であり敵という認識の
シャオヘイは何度も逃げ出そうとする。
時折シリアスな展開になってもシャオヘイの子供だからこその
無邪気さがコミカルなコメディシーンを生んでおり、
雰囲気が重くならず、かといってわざとらしいギャグでもない。
自然とクスクスと笑ってしまうようなシャオヘイの子供らしい行動が
この作品をいい意味でライトな作品に仕上げている。
旅
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
旅のシーンはやや長い、だが、その長さはシャオヘイにとっては必要だ。
見てる側もムゲンの目的や、旅の裏で同じ妖精を襲っているフーシーの
意図がよくわからず、シャオヘイと視点で描かれてるからこそ
「状況」がつかみにくい。
誰が敵で、誰が味方で、誰が正義で、誰が悪なのか。
そういったわかりやすい立ち位置の描写はこの作品にはない。
それぞれがそれぞれの正義と価値観で動いており、
ある意味で誰しもが子供であり価値観の定まってない「シャオヘイ」に
とっては味方だ。
大人の人間や妖精たちは自分たちの価値観が正しいと思っており、
その価値観を子供である「シャオヘイ」に伝えようとしている。
長い旅の中で人間であるムゲンは何度も逃げ出すシャオヘイを
捕まえつつ、クールな態度なのに何処か優しい。
唐突にシャオヘイに対して「力」の使い方を教え始める展開は
ちょっと急ではあるものの、「気」や「術」と言った要素は
中国らしさを感じ、シャオヘイが同じ属性を持つ人間のムゲンから
力の使い方と戦い方を教わる。
それ以外にも彼から色々なことを教わる。
自分の持つ力の特別さ、人間社会の仕組み、人間の食べ物や文化、
街では人間と共生して仲良くやっている人間も居ること、
妖精も人間もいろいろな価値観を持っており、その多種多様な価値観を
「シャオヘイ」にムゲンが見せる。
二人の掛け合いはなんとも微笑ましい。
シャオヘイも最初は人間であるムゲンを信用せず疑っている。
だが、旅の中でムゲンに徐々に心を開いていく関係性の描写と
ムゲンのクールなのにどこか抜けているキャラクターの魅力、
この二人の日常と旅の描写が微笑ましく、ニヤニヤしてしまう。
特に食事シーンにおけるシャオヘイとムゲンのリアクションは
シンプルではあるものの料理の美味しさを表現し、
それを美味しそうに、時には不味そうにする二人が愛らしい。
フーシー
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
彼の目的はシンプルだ。自然を破壊し、自分たちの居場所を奪う人間、
そんな人間に対して彼は憎悪をいだき「妖精だけの場所」を
作ろうとしている。
シャオヘイもムゲンと出会わなければフーシーのそんな価値観に賛同し、
自分の力を自分の意志で貸していたかもしれない。
しかし、ムゲンと出会ったことで彼の価値観は揺らいでいる。
ムゲンという人間と言葉をかわし、色々なことを教わり、
人間社会を知り、彼以外との人間に「感謝」の言葉を言われたことで
より彼の価値観は揺らぐ。
妖精の中には人間に対して良い印象を持つものもいる。
ムゲンの所属している「館」という組織は、
妖精たちが人間との共生を目指す組織であり、
彼らは妖精であることを隠し人間社会に馴染み共生しようとしている。
確かに人間に居場所は奪われた。しかし、館の妖精たちは
そんな中でも人間の中で自分たちの居場所を作ろうとしている。
ムゲン達「館」の価値観も正しく、フーシーの価値観もある意味正しい。
どちらが悪とはいえない状況だ。
自然と人間との関わり合いはジブリでも何度も描かれてきた。
もののけ姫や平成狸合戦ぽんぽこ、そういった作品で描かれてきた
テーマをこの作品はこの作品なりに描こうとしているのを感じられる。
そして、その選択権は物語の主人公であるシャオヘイに委ねられている。
用語
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
ただ原作が中国ということもあり、また尺の問題もあるせいで
やや「用語」がわかりにくい。彼らは忍術のような術を使い、
それにはそれぞれ属性があり、主人公とムゲンは金、
フーシーは木と説明されるものの、ちょっと分かりづらい。
「領域」という用語が出てきたと思ったら「霊域」という
似たような用語の言葉も出てくることでややわかりづらく、
ある程度、バトルアクション系の漫画やアニメの基礎知識があれば
なんとなく理解できる部分は多いものの、
属性やら気やら術やらいきなり言われて戸惑う人もいるかも知れない。
根底にあるのは「NARUTO」であり、「NARUTO」を読んでると
ある程度、用語を頭の中で変換しつつ見れる部分があり、
特に「フーシー」が使う術はNARUTOの某キャラの術そのものであるのが
やや気になる部分ではあるものの、そこはご愛嬌だろう(笑)
キャラクターも非常に多く出てくるが使いこなせてるとは言えず、
掘り下げが殆どない、出番が殆どないキャラクターも多い。
せっかく魅力あふれるキャラクターが多いのにキャラの使い方や
用語の説明は雑に感じてしまう部分もあり、
もったいないところだ。
選ぶ道
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
終盤でシャオヘイはフーシーと再会する。
シャオヘイは自分の力がフーシーの目的に必要なこともわかっており、
フーシーの事情も把握している。だからこそ彼は彼に問いかける。
自分を助けてくれたのは自分の力が欲しかったからなのかと。
純粋で無垢な疑問だ。
フーシーは謝りながらも自分の目的のためにシャオヘイの力を奪う。
フーシーはもう後には引けない、自分の目的のために、
自分の正義のために手段を選べなくなってしまっている。
それが悪いことと、本当は自分でもダメなこととはわかっているのに
自分を信じてくれた仲間のためにも彼は止まることが出来ない。
たとえそれがシャオヘイの命を奪うことだとわかっていても
彼にはもう止まることは出来ない。「櫻井孝宏」さんの演技も
相まって哀愁すら漂うフーシーのキャラ描写と
決して間違っているとは言い切れない彼の価値観の描写が際立っている。
戦闘シーン
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
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ラストのバトルシーンは特に圧巻だ。この作品の戦闘シーンは
かなりのハイクォリティで描かれている。特に
「カメラアングル」に関しては日本のアニメではあまりやらないような「立体的なカメラアングル」でキャラクターを映すことによって
2Dの作画をまるで3Dのような立体感のある表現へと昇華しているう。
ハイスピードで動き回りながらの技と技の応酬、
「NARUTO」っぽさは否めないものの動きまくるキャラクターと
技の描写の数々に思わず息をぐっと飲むほどだ。
勝てない状況でもシャオヘイのために戦うムゲン、
己の正義を押し通そうとするフーシー。
シャオヘイを犠牲にしてでも自分の正義を押し通そうとした時点で
フーシーが負けることは決まっていたのかもしれない。
ごめん
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
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やや終盤はご都合主義というか説明不足の部分があり、
命を奪われかけていたシャオヘイが二人が戦っているところに
来られた理由など、後で説明されるもののちょっと理解しづらい。
ただ、それでも彼が自分の力と意思で妖精たちだけの居場所を無くし
二度と特別な力が使えなくなっても「別にいい」と思えるほど
価値観が定まり成長した様には涙腺を刺激される。
もはや人間を恨んでいたシャオヘイは居ない、彼は共存できると、
自分とムゲンのように仲良く、妖精と人間が共存できる道もあるんだと
信じている。全ての出来事が終わり、彼の中には疑問が残る。
「フーシーは悪い人だったのかな」
と。フーシーは最後の最後でシャオヘイに謝罪した。
だからこそシャオヘイには疑問が残る。
フーシーの描いた未来、築こうとした未来は妖精たちにとっては
もしかしたら間違っていなかったのかもしれない。
そんな疑問にそっと「ムゲン」が言葉をかけ、
「ムゲン」と同じ道を進もうとするシャオヘイとのラストには
思わず、温かい涙を誘われる作品だった。
総評:日本のアニメ映画が忘れていることを
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
全体的に見てシンプルに面白いと感じられる作品だ。
キャラクターの多さ、用語の説明不足とわかりづらさという欠点は
あるものの、かつてジブリが描いていた自然と人間の共生という要素を、
決してパクリではなくリスペクトという形で
中国らしく描いている作品だ。
メインキャラクターにしっかりと魅力があるのもこの作品の良さだ。
主人公のシャオヘイは可愛らしく、どこか生意気で、でも子供らしく、
そんな彼が主人公だからこそ迷いながら価値観を定めていき、
最後に答えと自分の居場所を自分の意志で見つける流れは主人公らしい
魅力が溢れ、彼が主人公だからこそ温かいストーリーになっている
作画も本当に素晴らしく、しっかりと描きこまれた背景は
ときにファンタジックにときにリアルに感じさせ
現実感と幻想感を背景の描写で切り替えており、
キャラクターデザインも中国らしさを感じさせつつ、
一人ひとりがしっかりと魅力あふれるデザインだ。
戦闘シーンもNARUTOリスペクト感のある描写は否めないものの、
大胆なカメラアングルで動きまくる戦闘シーンはスクリーン映えし、
最初から最後まで見応えのあるアクションシーンが描かれている。
中国アニメということで「偏見」もある人もいるかも知れないが、
この作品は逆に今の日本のアニメ映画にはない「子供の目線」を
大事にしている作品だ。だからこそ子供にこそ見てほしい、
大人も楽しめるが、かつてのジブリのように「子供」にこの作品を
見てもらいたいと大人が見て感じる作品になっている。
個人的な感想:久しぶりに
画像引用元:【本予告(90秒)】「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)ぼくが選ぶ未来」 より
(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
最近の日本のアニメ映画はある程度、ハイティーンに向けたものが多い。
君の名はのヒット以降は特に顕著でいわゆる青春アニメ映画だ。
最近だと「すみっコ暮らし」が子供向け作品と言えるかもしれないが、
アンパンマンやドラえもん、クレヨンしんちゃんやプリキュア、
そういったものを除けば小学生か幼稚園くらいの子供に向けたような
アニメ映画は本当に少なくなってしまった。
アニメは子供が観るものだった。その偏見は今だにのこるものの、
逆にその偏見が薄れ、オタクの人口が増えたからこそ
「子供」に向けた作品が減ってしまっている。
そんな日本のアニメ映画事情を見ているだけにこの作品を見ると
かつての日本のアニメ映画が子供向けに作っていた作品を
思い出すような、忘れかけていたものを気付かされるような作品だった。
それと同時に中国アニメに対しての驚異も感じる(笑)
日本のアニメ業界もうかうかしていられない。
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レビューが興味深いものでした
ところで、ムゲンがシャオランを狙うところなのですが、執拗が必要になっていませんか?