評価 (56点) 全12話
あらすじ 人ならざる獣人たちが、人間からの差別を逃れ、自由に生きられる街・『アニマシティ』。タヌキ獣人の影森みちるはひとりアニマシティにやってきたが、騒動に巻き込まれ、オオカミ獣人・大神士郎に出会う。みちるは元人間の獣人だった。引用- Wikipedia
トリガーが描く弱者の物語
本作品はTVアニメオリジナル作品。
監督は吉成曜、制作はトリガー。
獣人特区
画像引用元:BNA 1話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
1話早々から独特な世界観が描かれる。
日本に住む「獣人」たち、そんな獣人たちは露骨な差別を受けており
人間から逃げる獣人の少女「みちる」は獣人の住む獣人特区を目指していた。
というところから物語が始まる。
TRIGGERらしい色合いと冒頭から描かれるキビキビとしたアクションは心地よく、
癖のあるキャラクターデザインからも「TRIGGER」らしさを感じる。
アクションシーンで下手にCGに頼らず手描きで描いている、
職人気質なTRIGGERという制作会社らしい画作りだ。
もうひとりの主人公である「士郎」は人間に強い恨みを持っており、
人間に味方をする獣人にも容赦がない。
「差別」と、それに対する「恨み」が描かれた1話は飲み込まれる。
逃げてきた「みちる」は元人間の獣人だ。
この差別の原因はなんなのか、「士郎」はなぜそこまで人間を恨んでいるのか
「みちる」はなぜ獣人になってしまったのか。
元人間だからこそ人間にもいい人は居ると信じる「みちる」、
人間なら関係なく悪だと決めつけている「士郎」。
この二人の物語が素直に気になってくる。
弱肉強食
画像引用元:BNA 2話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
獣人たちの世界は「ルール」よりも己の力が全てだ。
強いものが勝つ、シンプルかつわかりやすい獣たちのルールだ。
人間たちに差別され追い詰められて特定の範囲内で住んでる彼らの中でも
「差別」はある。人間社会以上に格差が広がっている。
みちるにとってユートピアだと思っていた街も
人間社会と違った意味で差別が広がっている。
「社会的弱者」の中の「弱者」は現代社会を投影している部分もあり、
強者は弱者を生み、弱者はより弱者なものを生み出す。
そんな社会構造がこの作品には色濃く現れている。
獣人族の街で男に捨てられた女達はやばい仕事に手を出し、
子どもたちはろくに学校にすら行けておらず、売られる。
男女差別、社会構造、マイノリティとマジョリティ。
当たり前のように現実世界にも存在する問題をこの作品は描いている。
そんな社会構造、差別、弱肉強食の世界を「みちる」は目の当たりにし
悔しい思いをしながら少しでもなんとかしようと努力する姿は
紛れもなく主人公だ。
難しい社会問題を描きつつ、そこに感情的に反応する「みちる」がいるからこそ
彼女に感情移入することができる。
ニナ
画像引用元:BNA 4話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
4話で「みちる」は人間の世界に戻る。
獣人たちは普段は人間の姿をしており、
気が緩んだりしなければ獣人の姿に戻ることはない。
人間の世界に憧れる獣人である「ニナ」とともに1度だけ人間の世界に戻る。
表面上は「差別なんてしない」という人間もいる。
だが、あくまで表面上なだけだ。偽善だ。
根本的な「差別意識」がなくなってるわけではなく
対等に見てくれるわけではない。あくまでも自分たちは人間で、
ミチルやニナは獣人なんだと当たり前のように接する。
人間と獣人の間で揺れる「ミチル」は感情的な言動や行動は多いが、
揺れているからこそ、まだ女子高生だからこそ、考える。
ウジウジと悩むわけじゃない。彼女が彼女なりに考えて自分の価値観を変えていく。
最初は彼女自信も縦陣に対して差別があった。
そんな彼女が差別される側に回ったことによる価値観の変化を序盤は描いている。
黒人
画像引用元:BNA 1話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
この作品における獣人は「黒人」の比喩でもある。
肌の色の違いだけで差別される、そんな彼らと同じように
獣人も見た目だけで差別され「獣人だから」と被害を受ける。
奇しくも本作が放送当時、米国では「BLM」運動が盛んになっていた。
突然人間が獣人になることなんてありえない。
そんなことが人間に知られれば人間はパニックになる。
現在の世の中で白人がある日突然黒人になったらパニックになるのは必須だろう。
そんなことを比喩してるかのような「獣人」たちの置かれた立場の
根底にあるのは「黒人」だ。
ある日、白人だった少女が黒人になった物語。
この作品で描いているのはまさにそれだ。
そこに社会構造、男女差別、フェミニズムや貧困問題、宗教的価値観を
盛り込んでいる。非常にピーキーな要素を扱っていると言っても良い。
立場
画像引用元:BNA 6話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
6話で「ミチル」はかつての友人と再会する。
自分と同じように獣人になってしまい、同じ用に獣人の街に来ている。
しかし、ミチルとは立場が違う。
ミチルはいい人と出会ったことで獣人の街で友だちも増え、生き方を見出している。
だが彼女の友人は作られた宗教のお飾り。
しかし、それも彼女の生き方だ。自分が利用されているとわかっていても、
友達を利用しようとも彼女は自分を助けてくれた存在をかばい、
自分は作られた宗教の教祖でいようとする。
かつては同じ立場で同じ環境に居たからこその友人だった。
だが、今は立場と環境が違う。立場と環境は人の価値観に変化を生む。
思い込むままに突っ走ってきて、それが正解だった「みちる」。
だが、そんな「みちる」の価値観をかつての友人が否定する。
物語の折り返し地点で見事なストーリーの流れが作られている。
主人公のミチルは何にでもなれる力を持っている。
早く走りたいと思えばチーターの脚が、空を飛びたいと思えば渡り鳥の脚が。
何も知らなかった彼女が獣人になったことで様々なこと、価値観を知っていくことの
比喩のような能力だ。
淡々
画像引用元:BNA 8話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
ただ、扱ってるテーマ的に重く暗い雰囲気になることが多い。
「TRIGGER」は過去の作品でも作中でこういったテーマを扱ったことがあったが
そのテーマと同時に爽快感あふれる要素があった。
陰鬱とした部分を熱さと勢いで後押しするような感じだ。
戦闘シーンも毎話のようにありよく動くのだが、
それが盛り上がるシーンとは言い切れず、
作品全体としてどうにも地味な印象が拭いきれない。
獣人たちも、通常は人間の姿をしているため
でてきたキャラクターが人間なのか獣人なのかわかりにくい部分もある。
終盤で明かされる要素も割と引っ張った割には
さらっと解説されてしまった感もあり、
やや設定を持て余した感じも否めない。淡々と話を勧めてしまっており、
アニメという娯楽におけるエンタメが不足している
終盤
画像引用元:BNA 8話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
獣人たちに「ニルヴァジールシンドローム」という現象が起こる。
ようは理性を失って暴走してしまうという現象だ。
「士郎」は獣人たちの危険性をわかりつつも、人間への恨みを捨てられない。
本当に長い間「人間を恨んできた歴史」があるからこそ真実がわかり、
獣人でなくなるということを彼は選ばない。
差別意識というのは根深い。
たとえ真実がわかっても、1度動き出した差別という列車は止められない。
若い人は考えを簡単に改めることができる。
ミチルとその友人のようにぶつかり合って互いを認め合うこともできる。
だが、ある程度以上の年齢に行けば簡単には差別意識は消えない。
間違っているとわかっても、その間違いを認められない。
獣人たちの暴走の危険性を取り払うためにも、獣人でなくなることが必要だ。
だがそれは彼らにとってのアイデンティティの喪失でもある。
差別されてきた人たちが、その差別されていた要素がなくなるとどうなるのか。
非常に難しい問題だ。その気持を知っているのは人間から獣人になったミチルだ。
彼女の説得の言葉は「士郎」に届くものの、
1度動き出した差別は止まらない。
誰に止められない暴走という名の暴動につながってしまう。
ん?
画像引用元:BNA 12話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
扱ってるテーマがテーマだけに「どう風呂敷をたたむのか」が重要だ。
ただ、この作品の場合、そのたたみ方がやや強引と言うか雑になっている。
現実に起こっている問題を比喩しているかのような要素が多かっただけに、
アニメ的な勢い任せで解決してはいけない問題まで
最終話で一気に解決してしまった感が否めない。
獣人たちの暴走も「血清」を打てば落ち着いてしまい、
差別の問題も「誰かが差別するように仕組んでいた」というような
陰謀論めいたものもあり、本来はそこに逃げてはいけないはずの部分に
逃げて落とし所にしてしまっている。
根本的な差別の問題、貧富の問題などこの作品で描かれてることは解決していない。
おそらくこの先も変わることはないだろうとすら感じてしまう。
簡単に解決する問題でないのは事実だが、
結局いつものTRIGGERのノリで解決してしまったのは
ごまかされた感じがしてしまう。
総評:テーマが難しすぎる
画像引用元:BNA 12話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
全体的に見てTRIGGERがこれまで断片的に描いてきた差別や選民思想的なものを
この作品にギュッとまとめてより現実の問題を投影するかのような内容は興味深い。
黒人差別、ジェンダーの問題、貧富の差、現実で今も続いている難しい問題を
比喩しながら作品の中に取り込み、それを主人公に見せることで、
差別する側から差別される側へと変わった主人公の価値観の変化は面白い。
ただ、やはりテーマが難しすぎた。
現実でも解決していない問題を本格的にアニメの中で取り入れた姿勢は評価したいが
「解決策」がいつものTRIGGERのノリでやってしまっていたせいで、
どうにもしっくりとこないものになってしまった。
作品全体としても派手なシーンが少なく、アニメーション的に面白いシーンは
あるものの「派手さ」がなく淡々とストーリーを進めてしまっており、
勢いがなく深いところに刺さらなかった。
1クールの作品としては少し色々な部分に焦点を当てすぎた感じが否めない作品だ。
好きなキャラクターも多く、印象に残る回もあるのだが
作品全体としてみるとぱっとしない感じがある作品だった。
個人的な感想:中盤までは…..
画像引用元:BNA 7話より
©2020「BNA ビー・エヌ・エー」製作委員会
7話くらいまではこの作品をすごく楽しんでみていた。
地味な部分はあったが、主人公の価値観の変化と友人によるその否定、
5話の野球回などあのあたりが話としてピークだったような印象だ。
結局、純粋な「人間」のキャラクターが少なすぎるの問題だ。
差別する側の差別する理由、差別という概念をもう1歩深く描いてほしかった。
1クールではなく2クールなら、もっといい作品になったかもしれない。
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