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「さよならの朝に約束の花をかざろう」レビュー

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評価 ★★★☆☆(57点) 全115分

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編

あらすじ 十代なかばの若い姿のまま数百年を生きる不老長寿の一族「イオルフ」は、人里離れた土地で「ヒビオル」とよばれる布を織って静かに暮らしていた引用- Wikipedia

岡田麿里節全開

本作品はオリジナルアニメ映画作品。
監督は脚本家で有名な岡田麿里、なお本作品が初監督作品となる。
製作はP.A.WORKS。

走れ!飛べ!


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

映画が始まって早々に「岡田麿里ism」全開だ。
少女が一人走り出し、なぜ塀の上から湖に飛び込む。
彼女は飛びこない「マキア」に弱虫と言い放ち、意地悪な笑みを浮かべ、
マキアは自分の大胆になれない性格と、彼女を見つめる想い人の視線に心を痛める。

走る、飛ぶ、叫ぶ。
これは岡田麿里さんのキャラの感情表現における三大原則だ。
彼女が手掛けた作品の多くはキャラクターが走り、飛び、叫ぶシーンが多くある。
感情の爆発を行動で表現するのが岡田麿里脚本だ。

開始5分足らずで岡田麿里脚本らしさをビンビンに感じる。
これぞ「岡田麿里ism」だと言わんばかりのキャラクターの描写の仕方が
岡田麿里監督で描かれる。

わかりにくい


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

主人公の好きな人が自分以外の女の子と楽しそうに
「密会」をする様を見て涙を流しす。するといきなり謎の花が咲き、
ドラゴンのようなものが彼女たち里に現れ、襲いかかる。
やや専門用語が多く、あまり説明がないままに話が展開していくのは
やや置いてけぼりを食らう展開だ。

彼女たちは「不老長寿」の存在であり、
そんな存在を狙って襲ってきたのは分かるが、
壮大なようでほとんど掘り下げられない世界観のせいでわかりにくい。
キャラクターデザインも似ているキャラクターが非常に多く、
展開も唐突だ。

密会を目撃したかと思いきや、里を襲われ、主人公はドラゴンに捕まって
里の外へ行ったかと思いきや、主人公は母親を失った「孤児の赤子」を見つけ、
唐突に出てきたどこの誰とも知らない男性キャラに忠告されるも、
彼女は赤ん坊を育てることを決める。

これが15分くらいで展開してしまう。物凄く怒涛の展開だ。

時の流れ


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

「不老不死」の主人公にとって人にとっての時の流れは一瞬だ。
赤ん坊だった男の子はあっというまに少年に成長し、
人間の村の中で主人公も「母」として少年に接する。

主人公の姿は最初から最後まで変わらない。
周りの人間は成長し、大人になり、老い、死ぬ。
今までは自分と同じように「変わらない」ものと一緒に暮らし生きていたが、
里を出たことで彼女は人の日々の中で「死」を知る。

彼女は「不老不死」の一族としての定めもある。
序盤こそ怒涛の展開ではあるものの、そこを乗り越えると
この作品で描きたいことが見えてくる。

NTR


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

ただ、ここで岡田麿里脚本の悪い癖が出る。「ドロドロ」だ(笑)
彼女は平気で女性キャラクターたちが殴り合うような
どろどろした脚本を書く脚本家だ。だからこそ寝取られ要素も出てくる。

人間の王にさらわれれた同じ一族の女性。
時が経ち、彼女と同族の男性と助け出そうとしたら、
その女性が王様に孕まされている。
人の王は彼女たちの「不老長寿の血」を一族に取り入れることを目的としており、
だからこそ彼女たちの里を襲い攫った。

「王」の行動理由は納得できるものの、
助け出そうとした同じ一族の女性と、一緒に助けに行った男性は
かつての「恋仲」だ。せっかく命がけで助けに行ったのに、
妊娠しているという寝取られ展開は思わず笑ってしまった。

ちなみに王は数年後、彼女に飽きる(苦笑)
抱いてくれないとヒステリーになる彼女の姿は昼ドラでも見てるかのような
ドロドロ感に満ちたキャラクター描写だ。


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

この作品で描きたいことの1つが母だ。
主人公は種族も違い、寿命も違い、血の繋がりすらない子供を育てる。
だが主人公の外見はずっと10代の少女のままだ。
最初は自分と同じような立場の赤ん坊に対する同情だったのかもしれない。
そんな彼女が時が流れる中で徐々に「母」として自覚していく。

しかし、そんな自覚をしているにも関わらず成長すると
息子は母と同じような見た目にまで成長してしまう。
世間的には「姉と弟」として見られ、
「変わらない母」に彼も戸惑い、主人公を母とも呼ばなくなる。

反抗期だ。愛情をかけて育てた子供に反抗される母の苦しさ。
それが人間にとっての「成長」ではあるものの、
母としてまた主人公な悩み苦しむ。
そんな母として悩む中で人間の幼馴染に告白されまた悩む。

シングルマザーとしての「悩みや葛藤」を
ファンタジーの世界でこの作品は描いている。
どうしたら母になれるのか、どうすれば母になれるのか、
彼女は答えを探し求める。

彼女にとっては彼が全てだ。
彼以外のことを考えることも、その余裕もない。
息子に「母親と思っていない」と突き放されてしまう。
この親子がどうなるのか。無償の愛を注ぐ母と、無償の愛を受ける子供。
母を守りたいのに傷つけてばかりの少年は男になろうとする。

ひとり立ちだ。ずっと一緒に暮らすのが親子ではない。
「巣立ち」を見送るのも母の役目だ。見送り、一人泣く彼女の姿は母だ。

唐突


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

中盤をすぎるとまた一気に時間が進む。
状況の変化が相変わらず唐突すぎて、その変化に一瞬ついていけない。
息子は兵士になり、いつのまにか再会していた幼馴染を孕ませている(笑)
いつ再会したんだ?と一瞬戸惑ってしまうほど急展開だ。
母とは言え血の繋がりはない主人公に対して息子は少なからず恋心も合ったはずだ。

しかも戦争が起こる。
寝取られた男はメンヘラみたいになっており、
10数年のときが経ても寝取られた女性を助け出そうとやっきだ。
だが、彼の思いとは裏腹に彼女は「娘に会いたい」と泣き出す。

主人公と息子の物語は「母」の物語として興味深く面白いのだが、
それ以外のキャラクターのストーリーがやや雑だ。
115分という尺でさばききれておらず、そのせいで彼らの行動に
ちょっと引いてしまう。

なにせいきなりメンヘラ男が「心中」しようといいだす(苦笑)
寝取られておかしくなってしまったのは分かるが、
ちょっと行動がぶっ飛びすぎていてついていけない。
岡田麿里脚本らしい過剰な表現によるキャラ描写が
主人公と息子以外は悪い方に向いてしまっている。

急な展開の切り替わりと、極端なキャラ描写が相まって
見ている側の「感情」がついていけない。
ちなみに寝取られヤンデレ男は間男に撃たれて死ぬ。
あまりにも彼が可哀想だ…

更に「再会」と「偶然」があまりにも多い。
偶然、昔の村で仲良かった少年と違う街で知り合い再会したり、
偶然、主人公がさまよってたら息子の妻がお産まっさかりだったりと、
ちょっとあまりにもご都合主義がすぎる部分が多い。

本来はもっときちんとした尺で描かれるべき部分を描かずに省いており、
そのせいで唐突に感じる展開になってしまっている。

終盤


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

終盤は別れの連続だ。
愛した息子からも、ようやく会うことが出来た娘にも彼女達は別れを告げる。
命の長さが違うからこそ別れは訪れる。
息子の死を看取るという母にとってはあまりにも辛いシーンでこの作品は終わる。
母として「泣かない」と決めていた彼女
が大声で泣くシーン。
このシーンこそ「岡田麿里」らしさの象徴だ。
走馬灯のように息子との日々を思い返し、彼女は噛みしめる。
愛してはいけないと言われていた一族が一人の人間を愛し、母になり、
一生を見届けた。

「愛してよかった」という彼女の台詞に、
さぁ「泣け」と言わんばかりのシーンだ。岡田麿里さんの脚本は
よく感動の押し売りと表現されることが有る。
しかし、そんな押し売りとわかっていても涙腺をしげきされてしまう。
これが岡田麿里脚本の凄さであり力強さだ。

泣かせたら勝ちといったら言い方は悪いかもしれないが、
色々と細かい部分焼きになる点は多いものの、最後には感動してしまう。
悔しいかな泣いてしまうのが岡田麿里というクリエイターが手がける
作品の凄さなのかもしれない。

総評:母になった貴女へ捧げる物語


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

全体的に見て「the岡田麿里」だ。
岡田麿里という脚本家のらしさ全開の感情の爆発と極端とも言える
キャラクターの感情の表現は本当にストレートに見る側に突き刺さるものが有り、
115分で描かれる「母」の物語と最後は涙腺を刺激される。

その一方でかなり唐突すぎる展開の数々や時間の経過による
状況の変化が目まぐるしく、1度見ただけでは変化についていけない場合も多く、
いきなり妊娠してたり、いきなりどっかに行ってたり、いきなり妊娠してたりと
視聴者に優しくない場面展開が非常に多い。

そういった意味でも「商業的に媚び」を売ってる部分がないとも言える。
本来なら視聴者の立場に立ってわかりにくい部分をわかりやすくしたりする。
だが、この作品はしていない。岡田麿里という脚本家が自分のやりたいこと、
描きたいことを思うままに詰め込み、思うがままに描いている。
だからこそ、この作品が刺さる人には物凄く刺さるのだが、
刺さらない人にはまるで刺さらない作品になってしまっている。

私はこういうふうに表現するのが本来はあまり好きではないが、
この作品は「女性であり、母である貴方」に向けた作品だ。
岡田麿里さんが女性に、母にこの作品を見てほしい。
そう思ってこの作品を作ったに違いないと感じるほどに
「女性」と「母」という部分に向けた作品に仕上げている。

物凄く尖った作品だ。
本来は娯楽であり商業作品であるアニメ、特に「映画」ならばなおのこと
「多くの人」に受ける作品を作るのが当たり前だ。
だが、この作品はそんなことはしていない。

そう考えて2回目を見直すとこの作品の面白さがより深く見えてくる。
「母親とは」「人の命の紡ぎ」「生きるということ」
1度目では汲み取れない部分やついていけない部分に
2度見ることで理解できる部分が増えてくる。

ただ、そういった意味でも難易度が高い作品だ。
いい意味でも悪い意味でも「岡田麿里」らしさ全開であり、
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」や「心が叫びたがってるんだ」などが
あまり好きではない方には受けつかない部分もあるだろう。

だが、そんな好きではない方をこの作品はバッサリと見放している(笑)
ある意味で清々しい「岡田麿里」という脚本家の魂を
見せつけられたような作品だった。

個人的な感想:うーん


引用元:映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編
(C)PROJECT MAQUIA

個人的には1度目はこの作品の尖った部分が刺さらず、
あまり受け入れにくい部分も多かったのだが、
2度見返すことでこの作品の面白さに触れることが出来た作品だ。

ただ2度見返しても寝取られ男の不憫さや場面展開の唐突さは
如何ともし難い部分があり、初監督であるがゆえに拙い部分も目立つ。
丁寧に描きすぎてくどくなってしまってる部分や、
やや盛り込みすぎている要素など、本来はもう少しスマートかつ
削ったほうが映画としては大衆受けする部分をまったくもってしていない。

そういった意味でもすごく人を選ぶ作品だ。人によって0点にも100点にもなりうる。
なんともレビューするのが難しい作品だった。

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  1. ダーク・ディグラー より:

    このアニメ劇場で観ました。

    非常に奇妙なアニメで嫌いじゃないんですね。

    最初は丁寧に描かれてますが後半に変になっていくんですね。

    主人公の義理のお母さんが成長した息子と息子の友達にモテモテになるって変なシーンがあって息子が義理のお母さんにせまるという劇場で観てて気まずかった(笑)

    変なシーンはさらに戦争終了後主人公の政略結婚された幼馴染の友だちと一緒にドラゴンに乗って逃げる。

    ……そのドラゴンどうやって乗ったんだよ!
    ……ってかドラゴンが弱体化したから戦争が起きたんだろ!

    ……意味が分かりませんね。

    最後は主人公と息子の別離ですが僕ここで息子がこう言ってるように聞こえるんですね。
    「母ちゃんもういいよようやく母ちゃんに離れられるんだね」

    ……..まぁ岡田磨里さん自伝エッセイ読んだらマザコンですからね。

    そこが岡田磨里さんの本質かな?

    機会があれば『ジュエルペットてぃんくる☆』『放課後のプレアデス』『ゴールデンカムイ』レビューしてください!