評価 ★☆☆☆☆(18点) 全115分
あらすじ 誕生日の前日―アカネの目の前で地下室の扉が突然開いた。そこに現れたのは、謎の大錬金術師のヒポクラテスとその弟子の小人のピポ。
引用- Wikipedia
原作破壊
原作は小説な本作品。
監督は原恵一、製作はSIGNAL.MD
癖が強い
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
見出して感じるのはキャラクターデザインのとてつもない癖の強さだ。
「日本のアニメ」というよりは海外のアニメのようなキャラクターデザインであり、
主人公はおそらく小学生なのだが身長の大きさと、
それ以上にも見えるようなやや大人びたキャラクターデザインもあいまって
小学生には見えない。
なぜかキャラクターデザインに「イリヤ・クブシノブ」という
有名らしいロシアのイラストレーターを起用しているのだが、
正直いってなぜこの人を「起用」したのだろうか?と疑問に感じる。
これが海外のアニメで海外のスタッフが作る作品ならば
ロシアの方のキャラデザでも雰囲気があうかもしれないが
「原恵一」監督の作品にははっきり言ってこのキャラデザは合わず、
更にたちがわるいことに演じている「松岡茉優」さんであり、
彼女の声もおよそ小学生になんて聞こえない始末だ。
音楽うるさい
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
冒頭から明らかにBGMのバランスがおかしい。
キャラクターたちの声とBGMがほぼ同音量で流れていることが多く、
そのせいでセリフが聞き取りづらくなってしまっている。
せっかく冒頭の主人公の叔母さんの「お店の地下室」から
見知らぬ人物がいきなり現れるという衝撃的なシーンですら、
その音量のデカさのほうが気になってしまう。
松岡茉優さんの声のつまり具合と相まって余計にセリフが聞こえにくい。
BGMを目立たせたいという製作の気持ちはわかるが、邪魔でしか無い。
異世界
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
この作品は異世界ものだ。もはやアニメでも映画でも
散々やり尽くしたといってもいい
「主人公が唐突に異世界に誘われて異世界を冒険する」という冒険譚だ。
突然、叔母さんの店の地下から現れた謎の人物に主人公は
「緑の風の女神」という謎の役割を認定され異世界に連れて行かれる。
なぜか主人公は危機に瀕している異世界を救う力があるらしく、
強制的に「前のめりに」されるというアイテムを
装着させられて異世界へと強制的におばとともにに連れて行かれる。
この「導入」部分に20分もかけている。
セリフがいちいち説明くさい割に特に面白みもないのに長く、
どうでもいいシーンもたっぷりと時間を掛けて描くため
テンポを致命的なまでに悪くしてしまっている。
そもそも説明されても主人公が異世界を助ける理由がない。
彼女は「緑の風の女神」というものに選ばれているものの、
彼女は別にそれになりたくてなったわけでもなく、
彼女の意思を無視して異世界に連れて行かれている。
間延びしまくりな脚本は面白そうなシーンでもグダグダにしてしまっており、
115分という尺を明らかに使い余している。
本来はワクワクするはずの異世界冒険譚のはずが、
テンポのせいでワクワク出来ない。
背景
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
異世界のファンタジーな世界観の背景描写は悪くない。
「スチームパンク」のような蒸気機関のみが存在する牧歌的な風景と
異世界だからこその大きな動物たち。
リアルとは違う「ファンタジ-」な世界観の描写は悪くない。
まるでキレイな絵本でも見ているような背景や、
可愛らし食器などの小物も世界観により浸らせてくれるポイントだ。
ただ、その「背景」をきちんと見せたいために
長回しになってしまっているシーンが非常に多く、
テンポの悪さにつながっているのは残念だ。
こだわった部分を見せたいのは分かるが、それが面白さにつながっていない、
敵が「ゆーっくり」階段を上がるシーンなど、
見ていて「早く登れや」とツッコミたくなるシーンだ。
ロードムービー
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
世界の危機が迫ってて主人公の意思を無視して異世界につれてきたのに、
そんな「のんびり」としたテンポで異世界を旅されるのも意味不明だ。
背景を見せたい、作り上げた異世界の風景を見せたいという気持ちはわかるが、
中盤はひたすら異世界を車で旅しているシーンを見せられる。
それの何が面白いのだろうか?
引きこもりがちだった少女が異世界で変わる。
この作品でそれを描きたいのは分かるが、その変化がまるで見えてこない。
主人公は「ただ」ついていってるだけだ。
車に乗り、色々と移動中に自然災害やトラブルに見舞われたり、
どうでもいいおばあさんのセーターを届けたりするものの、
特にそこで主人公がなにかするわけでもない。
そもそも「水不足」に見舞われて色が失われ始めてる異世界という
設定なのは分かるが、雪にまみれた街でも「水不足」と
言ってるのは意味がわからない。雪を放置して水にできないのだろうか。
それだけでなく庶民の生活からも「水不足」であることが全く見えてこない。
スープも飲みまくり、飲料水も酒も普通にある。
「水不足」なはずなのに水だらけだ。
水不足だから美しい異世界の「色」が失われると何回も言うのだが、
美しい異世界の描写において色が失われてる感があまりにも薄い。
水不足だから食事は少ない水とパンのみとかなら分かるが、
ガンガンに飲料水飲みまくって酒も飲んでてスープを飲みまくりシチューも食べる。
酒やスープやシチューに使う水はあるのに、なぜか水不足を訴えている。
意味不明だ。謎でしか無い。
景色の描写から川の水や池の水も枯れている様子もなく、
危機的状況が背景の描写からまるで伝わってこず、そのわりには登場人物は
「水不足」を訴える。ちぐはぐな描写は違和感しか生んでいない。
王子
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
「雫切りの儀式」が行われないと水不足が解決しないらしく、
その儀式を行うべき「王子」が病気だ。
その病気を治せるのが主人公が選ばれた
「緑の風の女神」というものだ。
一応、主人公は唐突に終盤には成長して
「この世界が綺麗で感動した」ことを王子に伝え、
「この世界を守って」と彼に告げることで彼の姿が元に戻る。
ちなみに主人公と彼の会話は5分ほどでしか無い。
しかも王子は王子で、元の姿に戻ったら
色々と恨みつらみがあったはずなのにやる気満々だ。
身体の病気ではなく心の病であるのはわかる、
王族としての重責、両親の死、死ぬかもしれない儀式をやらなければならない恐怖。
それゆえに彼は逃げた。
しかし、そんなメンタルケアを主人公が5分くらいしたら
メンタルが回復する展開も意味がわからず、
キャラクター同士の関係性やセリフがあまりにも浅い。
主人公も主人公で「前のめり」になるアイテムがあったから
勇気をもらえたというが、そんな感じに全く見えない。
もともと後ろ向きだった彼女が旅の中で、
前のめりになるアイテムを使わずとも前向きになれたのかもしれないが、
そのアイテムを王子に渡そうとするのも意味不明だ。
そもそも、そういうアイテムに頼らずに「前のめり」になる事が
重要なはずじゃないだろうか?
「アイテムに頼らずとも前向きになれた」というのが本来は重要なはずなのに、
「アイテムがあるから後ろ向きにならない」というアイテムだよりな
キャラの考えには納得できず意味不明でしか無い。
そんな「三日三晩」かかったはずのその前のめりのアイテムもすぐに作られる。
三日三晩かかったという要素はどこへいったのだろうか。
ちなみに序盤で受け取ったおばあさんのセーターは届けただけで終わる。
重要そうなアイテムに見えてまるでどうでもいい要素でしか無い。
雫切りの儀式
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
この世界では定期的に王族により「雫切りの儀式」が行われる。
この儀式は簡単に言えば「雨乞い」であり、成功すれば水不足が解決する。
失敗すると命を代償に次の代まで水不足が解決する。
つまり成功しても失敗しても「水不足」という問題は解決する。
この世界が水不足に陥ってるのはその儀式をしていないせいだ。
そもそも水不足になる前にその儀式をすればいいのに、
水不足になってから儀式をしだすのも意味不明だ。
王子のメンタルケアを怠り、不出来な弟子の魔法のせいで王子の姿が変化し
王子がメンヘラになったせいで井戸を破壊するだの言い出したせいで
ややこしいことになり、王子のメンタルケアのために異世界の少女を連れてくる。
とんでもない話だ。
しかも王子は儀式に失敗したかのように見えて飛び込もうとすると、
主人公はそれを止める。だが実は儀式は「成功」しており、水が湧き出る。
水が一気に出る場面が物語のピークであることは分かるのだが、
物語として納得できない部分が多く、涙も誘われない。
これみよがしに主題歌を掛けても感動することはない。
この「雫切りの儀式」がそもそも、実は成功していて
成功するまでに時間がかかっただけなのか、
それとも王子が本当に「命を投げ出す覚悟」があり、それを行動しようとしたから
発動したのか、それとも主人公の思いも込で成功したのかというのも
わかりにくく、いまいち消化しきれずに終わってしまった
総評:見せ方が悪い
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
全体的に見せ方の悪すぎる作品だ。この作品でやりたい事と見せたい事は分かる。
異世界で現実の問題から逃げていた少女が旅をする中で
「前のめり」になり成長し、現実の問題に立ち向かうようになる。
その中で異世界の美しさや風景を描いている。
だが、その美しさを見せたいがためにどうでもいい長回しのシーンが多く、
きれいな景色を見せたいがためにテンポが崩れてしまっており、
特に盛り上がりのない旅路が淡々と描かれてしまう。
はっきりいえばつまらない。
肝心のストーリーも「緑の風の女神」としての主人公の役割がいまいちわからない。
水不足は王族による儀式によって解決する問題であり、
その儀式を取り計らう「王子」の問題は王子のメンタルケアを怠っただけだ。
儀式の成否に関しても「緑の風の女神」の必要性をあまり感じず、
失敗したところで王子による自己犠牲で解決する。
「失敗したら死ぬ」という現実問題から逃げている王子と
「不登校」になりかけている現実問題から逃げている主人公という
同じ現実問題から逃げている二人をぶつけることで互いの悩みを
解決させたかったのは分かるが、主人公の説得が弱いのに
あっさりと王子がやる気満々になるのがまるで理解できない。
異世界から元の世界に戻るシーンも本当にあっさりしており、
「永遠の別れ」なはずなのに、世話になったはずの王子は挨拶にすら来ない。
そもそもそんなに会話していないので思い入れもないのかもしれないが。
淡々と終わるラストはある意味、この作品らしくはあるのだが
対して盛り上がらず、感動も出来ない作品だった。
個人的な感想:才能が枯れる
引用元:(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会
原恵一監督作品ということで期待した部分はあったが期待はずれだった。
自己満足的な背景の見せ方、見てる側を意識していない脚本、グダグダなテンポ、
演出家上がりの新人監督のような作品であり、本当に残念でしか無い。
原恵一監督の才能が枯れる瞬間を見るようで悲しさすら感じてしまった。
背景はたしかに綺麗だし、小物へのこだわりも感じる、
世界観の描写はいいのに、その世界観もそこに住んでるキャラも活かしきれず
淡々と終わってしまった。
最後まで主人公が小学生に見えなかったキャラデザも含め、色々とちぐはぐだ。
115分と約2時間もあるのに、その2時間を活かしきれていない。
調べたところ、そもそも原作から改変しまくりオリジナル要素足しまくりらしく、
原作にはそもそも「緑の風の女神」なんてものはないという
事実を知ってしまったときは膝から崩れ落ちそうになったほどだ。
最初から最後までどうした原恵一監督といいたなってしまう作品だった。
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