評価 ★★★★☆(64点) 全12話
あらすじ 高校三年生の泉瑛太は、父親の転勤に伴い、福岡から4年ぶりに神奈川に戻ってくる。2学期の終業式の日、転入する高校を訪れた瑛太は、中学時代の親友相馬陽斗と夏目美緒に再会する引用- Wikipedia
甘酸っぱさなのない不器用な彼らの恋愛模様
本作品はPINE JAM制作によるテレビアニメオリジナル作品。
監督は小林敦、制作はPINE JAM。
脚本はさくら荘のペットな彼女で有名な鴨志田一。
キャラクターデザインの言はんは「月曜日のたわわ」でお馴染みの比村奇石。
見出して感じるのはやたらめったら多い背景描写だろう。
神奈川県の湘南という地域設定を押してるようで、
湘南モノレールや実際の湘南の町並みが描かれている。
街並みとキャラを描くことで作品の「空気感」を出そうとしているのを感じる。
ただ、背景に比べて作画が悪い。
キャラ原案は比村奇石さんであり胸が大きくて可愛いキャラが特徴のはずなのだが、
どのキャラも胸の大きさは感じず可愛さも微妙だ。
特に男性キャラのデザインは特に悪い。
キャラクターデザインと作画の予算が釣り合っていない感じだ。
ストーリーの時系列は面白い。
この作品はいわゆる「学園青春恋愛もの」だ。
しかし、物語は冬から始まり主人公は「高校3年生」、あと三ヶ月で卒業してしまう。
そんなタイミングで主人公は父親の仕事の関係で「転校」してしまう。
高校三年であと三ヶ月しか学園生活がないのに転校、
この非常に珍しい設定が面白い。
はっきりいって1話は特に地味だ。
背景描写とキャラクターを登場させ、その中で丁寧に一人ひとりの
キャラクターの「これまで」を少しだけ語らせ、
どんなキャラクターかを印象づける1話ではある。
高校生活残り三ヶ月というタイミングで引っ越してきた主人公、
受験勉強を頑張るヒロイン、
推薦入学が決まってる吹奏楽部のヒロイン、
高校野球で惨敗してしまい悔いが残る男友達、
部員が3人しかおら廃部の危機写真部のヒロイン。
この5人が「この物語のメインキャラです」というのが驚くほど丁寧に1話でわかる。
1クールアニメが多く1話の印象が大切な昨今のアニメ業界において、
この1話はあまりにも地味で丁寧にすぎる、だが、
しっかりとした作品の空気感づくりとキャラの印象付けがされる。
丁寧にストーリーとキャラクターを「見せたい」という制作側の意図が感じられる
キャラクター同士の会話の間も面白い。
キャラ同士の会話の中での少しの無言、
互いの心理を読み合うような間の開け方をしている。
ストーリーのテンポはそのせいでやや悪い、だが、そのテンポの悪さが、
この作品の「空気作り」にも役立っており、テンポの悪い会話なのに飽きない。
何か起こりそうなのに起こらない。
序盤は告白や失恋といったメインイベントが描かれそうなのに描かれない。
遊んでいる高校生ではない、普通の高校生の彼らだからこそ、
恋愛がグイグイと進むわけではない。
じれったいほいどもどかしく、そのもどかしさが「ストーリーの引き」になっている
いつこのじれったさともどかしさは解消されるんだろうか、
いつ青春恋愛者における恋愛イベントが起きるのだろうか、
いつ告白するのだろうか。
その「いつかくる盛り上がり所」まで焦らされ、その盛り上がり所を見たいと
思わせるキャラの魅力と雰囲気がこの作品にはある。
基本的に恋愛関係は片思いだ。
主人公はヒロインをヒロインは主人公の友人を主人公の友人はヒロインの友人を。
わかりやすい一方方向の片思いの関係性をきちんと繊細に描くことで、
一人ひとりの恋愛が「報われてほしい」と感じさせる。
絶対に報われないとは見てる側には分かってしまうヒロインも居る。
アニメにおいて、いや、こういった創作物における
「恋愛で負ける未来が想像できるヒロイン」だ。
この作品のキャラクターの恋愛が報われてほしいと感じるからこそ、
彼女の恋愛模様を人一倍応援してしまう。
好きな人を目の前にして彼らはみっともなく、いじっぽく、情けない。
そんな彼らの姿を見てどう思うかは見てる人の恋愛経験や年齢によって違うだろう。
単純な「甘酸っぱい青春恋愛」というよりは「ほろ苦い青春」模様だ。
振られる彼らが、彼女たちの姿がかわいそうで仕方がない。
だが、振られた彼らと彼女たちの姿があるからこそキャラクターの魅力が深まり、
見ている側の感情移入が強まる。
この作品の主人公は他のメインキャラに比べて感情をあまり表には出さない。
自分が長く片思いした相手にさえ思いを告げず、むしろ彼女の後押しをするほどだ。
長く片思いをし、引っ越しもしてしまい、かなわぬ恋と諦めていたからこそ、
再会しても彼は喜びを表には出さず、積極的にも行動はしない。
しかし、表に出さなかった感情を7話で出す。
うまくいかず報われない彼女を彼なりに励まし、フォローし、かばう。
7話の中盤は電車の中でセンター試験向かう彼女に
問題を出しているだけのシーンだ。文章にしてしまえば「それだけ?」と
なるようなシーンだが、私はちょっと泣きかけた。
主人公の気持ちが、恋愛感情が、痛いほどに伝わってくる。
ヒロインに対しての感情のぶつけ方があまりにも不器用で明確に言葉を出さず、
だが、明確な言葉を出していないのに伝わる。
7話にして主人公が「物語の主人公」になるのを味わうことができる
今から見る人は1話で切らず、3話で切らず、騙されたと思って7話まで見てほしい。
この作品の最大の盛り上がりは7話であり、
この7話を見てから見るのを止めても遅くはない。
ただ終盤の展開に関しては「不器用がすぎる」部分が多い。
あまり書くとネタバレになってしまうので多くは書かないが、
互いのすれ違いもあって何もせずで誤解もありまくりな状況で、
更にすれ違い一ヶ月も時間が流れてしまう。
そのすれ違いをすっとばして急にハッピーエンドになってしまい、
ちょっとしっくりと来ない感じのまま終わってしまった。
物語がハッピーエンドで綺麗に終わるのは大変好ましいが、
11話まで丁寧だったのに最終話で急に雑になってしまった感じが出てしまっていた。
あのラストシーンに繋げたかったのは分かるが、もう少しやりようはあっただろう。
総評
全体的に見て地味な作品だ。
だが、派手な展開、衝撃的なストーリー、強烈なキャラ付けがないからこそ、
丁寧なキャラクター描写と、不器用な彼らのほろ苦い恋愛模様を味わうことができる。
1話では面白さは伝わらない、キャラクターに感情移入して初めて面白さが分かる。
じれったい恋愛模様がどうなるか気になり、不器用な彼らの不器用さに共感し、
振られるときの感情の機微が痛いほどに伝わってしまう。
地味だし、テンポも悪い。
だが、派手じゃないからこそ地味だからこそテンポが悪いからこそ染み渡るように
面白さを見れば見るほど感じれる作品だ。
惜しむべきは作画の悪さだ。
背景描写とセリフの間で空気感を作り上げているものの、
唐突に作画崩壊寸前の作画になることも多く、かなり不安定だ。
感情を表に出さないキャラが多いからこそ「表情」や「間」で
心理描写をしてることが多いのに、その表情の作画が悪い。
せっかくの作品の雰囲気が作画に邪魔されてしまうのはもったいなさすぎる。
初めてのオリジナル作品なのになぜPINE JAMはここまで作画ガタガタなのだろうか。
気合を入れるべき部分に気合を入れられない製作会社に未来はない気がする。
ストーリー、キャラはすごく良いのにアニメーションという媒体で重用な
作画で足を引っ張るのはもっともやってはいけない行為だろう。
個人的な感想
個人的にはキャラデザが「月曜日のたわわ」の人なので
エロいシーンが有るかと期待したのだが、それはなかった(笑)
しかし、そんな邪な気持ちで見始めたにも関わらず中盤では
ちょっと涙腺がやばかった。
ただ終盤の展開に関しては中盤までに比べて面白さが薄まってしまい、
最後もなんか「うーん?」となってしまう感じで終わってしまい、
どうにも消化不良だ。
ただ、1話から7話までの流れは素晴らしく、
終盤の展開は好みが別れると思うがハッピーエンドであることに変わりはない。
1話で切らずに中盤くらいまで見てほしい作品だ。
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