あらすじ 制御を失い、無秩序に、際限なく増殖する階層都市。その片隅で人間の村が滅びようとしていた。近隣の狩り場が枯渇し、食料を調達できなくなった。引用 – Wikipedia
鉄臭くサビ臭い荒廃した世界観の素晴らしさ
原作は月刊アフタヌーンで連鎖されていた漫画作品。
何度か短い尺でのアニメ化がされているが本格的なアニメ化は本作品が初、
netflix独占で劇場アニメとして配信されており、後に映画館でも上映された。
監督は瀬下寛之、制作はポリゴン・ピクチュアズ
見出して感じるのは「セルルック3DCG」の質の高さだろう。
セルルックというのはまるで手書きのような3DCGのようなことを指すが、
独特の癖があり、セルルックと言われなくても分かる質感が有る。
しかし、この作品はその質感がいい方向に作用している。
近未来の荒廃した世界感で機械にまみれた背景と、
人間たちが身にまとうパワースーツのような衣装、
この「機械的」な物質の表現がセルルックの質感と見事にマッチしており、
人物の無駄にゆらゆらとした動きにCG感は感じるものの、
機械の多い世界観だからこそ違和感を感じさせない。
世界観も面白い。
機械に支配された未来で制御を失った機械が無制限に都市を拡張し、
どんどんと人間のすみかが失われ、
機械たちは人間を不法居住者として排除し続けている。
「近未来の荒廃した世界感」という言葉にロマンを感じる人であれば、
この鉄臭さとサビ臭さを感じさせるような世界観はたまらないはずだ。
その世界観がしっかりと作られている。
細かい設定が多いというわけではないのだが、
人間たちが機械のスーツを着ている理由、機械が暴走している理由など、
最初は分からない理由がストーリーが進むたびに徐々に分かってくる。
そしてどうやったら人間が救われるのかという問題の解決の仕方も提示される。
きちんとした世界観を設定があるからこそ、それを紐解いていく序盤のストーリーで
しっかりとこの作品の世界観に入り込むことができ、
序盤ではこういったSF特有の「分かりづらさ」というものが少ない。
きっちりと作り込まれた背景描写も相まって、
シーンの1つ1つに魅入ってしまう。
いわゆる余計な肉付けがない。
重厚な世界観と設定とそれを見てる側に分からせるためのストーリー展開、
物語の「結末」までの道筋まできっりり序盤から中盤で見せることで、
その結末にどうやってたどり着くかというストーリー展開が気になってくる。
1時間45分という尺を非常にうまく使っており、
ストーリー構成がうまく出来ている。
ただ気になるのは戦闘シーンだ。
序盤と中盤、そして終盤と要所要所で戦闘シーンが描かれるがやや短く、
更になぜかやけに「スローモーション」を多用する。
せっかくスピード感のある戦闘シーンを展開しているのに、
特に意味を感じないスロー演出を入れられると腰を折られたような感覚になる。
素早い戦闘シーンからピタッとスロー演出を入れることで緩急をつけて
迫力と印象を深くしたいのは分かるのだが、せっかくの手書き作画では真似出来ない
セルルック3DCGの特徴でもある「スピード感」を出しているのに、
スローモーションを多用するのはもったいなく、
せっかくの戦闘シーンのテンポが悪くなってしまっているのが残念だ。
全体的に見て1本の映画としてよく出来ている。
きちんとした世界観と設定を序盤から中盤でしっかり感じさせ、
中盤以降のストーリー展開に対する期待感を盛り上げ、
SFで複雑な設定や世界観でありながら
ストーリー自体はシンプルに進むためわかりやすく、
きっちりと最後まで楽しめる作品だ。
ただ戦闘シーンにおけるワンパターンな演出や、
中盤以降に分かりにくいポイントや人によっては「ん?」と
理解が追いつかない点があり、1時間45分という尺では仕方ない部分はあるものの、
やや説明不足になっている部分があるのは気になる所だ。
原作を割りと改変している部分があるようで
原作を読んでいる人だと気になる部分や物足りないあるかもしれない。
さらに言えば淡々とストーリーを進めている感じも強く、
やや映画としては地味な印象が拭えない。
面白い作品なのだが万人には勧めづらい部分も大きい。
しかしながら、それでも1時間45分という尺を考えればうまく妥協し
まとめている作品であり、原作の「圧」や「魅力」を
アニメーションという媒体に落とし込んでいる。
原作が全10巻であり、当然ストーリー的には
「俺たちの戦いはこれからだ」で終わってしまうのはやや残念であるものの、
続きは原作で読むと言う楽しみも同時に生まれる。
個人的にはアニメーションと言う媒体でこの作品を最後まで見てみたいので、
できれば続編が制作されることを期待したい。
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