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ファンタジー自衛隊「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」レビュー

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評価★★★☆☆(58点)/全24話
「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」 vol.11 動乱編II

あらすじ
銀座に「門」(ゲート)が突然開き、 モンスターを引き連れた中世ヨーロッパの騎士や歩兵のような軍勢(約6万)が現れ大量の民間人を殺傷するが、自衛隊や警察により1割を捕虜とし残りは全滅する。

ファンタジー自衛隊

原作はファンタジー小説な本作品。
もともとはSS投稿サイトで投稿されていた作品であり、完結している。
監督は京極尚彦、アニメーション制作はA-1 Pictures

見だして感じるのはゆったりとしたテンポだろう。
最近のアニメ作品は1話開始5分あたりまで派手なシーンだったり
目を引くようなシーンが多いのだが、本作品の場合ははっきりいって「地味」だ

分割2クールということで尺に余裕があるからかもしれないが
1話冒頭はオタクな33歳の主人公の日常を淡々描いている。
そして、そんな主人公の平和な日常がファンタジー世界の住人が
日本に攻め込んできたことから壊れる。

だが、はっきりいって違和感がすごい。セリフ回しといえばいいのか、
ちょっと例を挙げるのがわかりやすいので作中のセリフを書き出すと

日本にファンタジー世界の住人がいきなり攻め込んできて
大パニックという状況で主人公が
「大変だ、このままでは夏の同人即売会が中心になってしまう!」
と一目散にパニックの中心に行く。
行動と言動がちぐはぐな感じが強い。

更に座り込んで怯えているOL風の女性に
「ここは危ない、死にたいのか、逃げるんだよ」と手を差し出す。
これは自然なのだが、そのOIL風の女性が「あなた誰!?」と叫ぶ。

もう少し自然なセリフや展開でもいいはずなのだが、
妙にスカした感じのセリフや主人公のオタク的キャラ付けのために行動や
セリフに違和感が出ている場合が多く、主人公は「自衛隊」に所属している人間なのはわかるが
躊躇なく外見は完璧に人であるファンタジー世界の住人を殺したり、パニクっている状況なのに
「即売会」のことしか気にしていない見ている側に感情移入をさせずに
いろいろな部分で「突き放された」感覚になる

更に地味な展開が続く。ファンタジー世界に自衛隊が攻めこむことになるのだが、
「GATE」を通じて銃だろうが戦車だろうが送り込みまくり状態だ。
戦車に対してファンタジー世界の住人は「槍と鎧」だドラゴンなども従えているのだが、
ドラゴンだろうが銃で倒せてしまうので自衛隊が強すぎる。

はっきりいって自衛隊による一歩的な「虐殺行為」のような描写になっており、
あまりの技術差、戦力差で爽快感というよりも不快感が生まれる。
これがダイジェスト的な描き方ならばいいが、
丁寧にじっくり描いてしまっているため余計にそう見えてしまう。
最初に攻め込んできたのはファンタジー世界の住人であり
日本人も多く死んでいるのだからオアイコではあるのだが、見せ方の問題だ

更にはいつの間にか「ファンタジー世界の言語辞書」ができていたりと、おそらくは原作で描かれている部分を「端折っている」せいで違和感を感じるシーンが非常に多い。本来はこの1話と2話は原作ではもっと長いのだろう。

だが、この1話と2話は「ヒロイン」がほとんど出ないためアニメ的にはあまり芳しくない。だからこそ序盤の部分を要点だけに絞って描き、早めにヒロインを出したのだろう。それが物語序盤の強い違和感や作品の世界観に浸りきれない要因になっているが、逆に言うとこの1話と2話を乗り越えてしまうとこの作品は面白くなってくる

圧倒的な戦力差の戦闘しか描かれなかったのが、3話で、きちんと「ドラゴン」との緊迫感のある自衛隊の戦いが描かれる。初めからこういう戦闘シーンが見たかった!と感じるほど巨大過ぎる「炎龍」を相手に、日本の自衛隊が「銃」と「ロケットランチャー」のみで戦う戦闘シーンは大迫力だ。

「もし、自衛隊がファンタジー世界と戦争をしたらどうなるのか」本来、この作品で描きたかったであろうシーンが3話で描かれることでようやく、この作品の面白さや魅力、やりたいことを感じることが出来る。ドラゴンを「プラスチック爆弾」で倒すなど、この作品ならではの魅力だ。

ストーリーが進んでいくと自然に異世界のヒロインが増えていく。中盤も本当に淡々とした異文化交流なのだが、地味で淡々としているからこそ「生々しさ」に似たリアルが生まれており、そこに本当に生々しい地球側の「政治」が絡むことでより、この作品の「リアルとファンタジー」の2つの要素によるオリジナルの面白さが醸しだしてくる。

戦闘シーンも2話のような圧倒的な描写も少なくなるもちろん技術差による「殲滅力」の違いはあるものの「虐殺行為」には見えないシーン作りになっており、ファンタジー世界で活躍する現代兵器の描写は「圧巻」されるものがある

ただ生々しい「自衛隊」の描写故に色々と思う所がある人もいるだろう。放送中も自衛隊という題材だけでアレルギーが出てしまう方が色々な所で暴れていたが、そういう方を刺激してしまう要素も確かにある。

作中でファンタジー世界の住人が

「あなたたちはどこの軍隊ですか?」

と問う。それに対し

「私たちは自衛隊です」

と応えるシーンなど色々と考えてしまうセリフだ、だからこそ「政治的」理念が強い人には嫌悪感や否定的感情が生まれるかもしれない。あくまでフィクションではあるものの、それをどう捉えるかは見る人の考え次第だ。

地球の方の「政治的要素」だけではなく、ファンタジー世界の方の「政治的要素」も描かれる。ただファンタジー世界といってもドラゴンや魔法があるぐらいなので地球で考えるなら「中世ヨーロッパ」くらいの技術、政治的レベルだ。
貴族なども存在し、その思想は固く、古い。

その固さと古さが、いい意味で日本の「ゆるさ」とあいまってギャグ的要素も生んでいる。ファンタジー世界の住人が「日本の国会で質疑応答」する様子などこの作品ならではのシーンと面白さだろう。

更に主人公。この作品の主人公は最初は感情移入しにくい「オタク」的要素は非常に強く「だらー」っと気の抜けたキャラであるがゆえにストレートに最初から感情移入するのは難しいだろう。だが、話が進むと不思議とこのゆるい主人公に愛着を持ち、更に「離婚歴あり」という事実が分かると余計に愛着が出る主人公だ

またヒロインたちも可愛らしい。キャラクターデザインの優秀さを感じてしまうほど、きっちりと「デザイン」されたヒロインたちは個性を感じ、それぞれが可愛らしく、サブキャラクターも魅力的なキャラが多く、そのキャラたちの意外な恋愛模様も話が進むたびに楽しめるだろう。

ただストーリー的には分割2クールの前半と後半で少し印象が違う。特に分割2クール目の1話である13話は、それまでなかった性的シーンがある。ファンタジー世界側が中世的な政治だからこその「支配」から生まれる過激な性的シーンはそれまで一切そういうシーンがなかっただけに色々衝撃的だ。ただでさえ好みが分かれるのにこういった性的シーンは更に違った意味での好みが分かれる部分になっている。

更に言えば2クール目からやや冗長に感じるシーンが多い。1クール目もわりとゆったりとしたストーリー展開だが、2クール目もわりとゆったりしている。1クール目はわかりやすい展開が多いが、2クール中盤からは政治的動きが多いだけにややこしさも生まれている。

原作が全5巻ということもあり、私はこの作品は2クールできっちりと完結させるかと思っていたのだが、残念ながら完結していない。尺的に全4クールならきちんと完結できたかもしれないが、2クールと言う尺のせいで中途半端に終ってしまっている感じは否めない。

全体的に見て非常に好みの分かれる作品だ。特に序盤はその傾向が強く出ているせいで見るのをやめた人も多いだろう、だが、その序盤を乗り越えればこの作品の「面白さ」がきっちりと出て来るのだが面白さが出て来ると同時に政治的な部分や軍事的な部分など日本と自衛隊という設定から生まれる「リアル」な部分の描写が引っかかる人も多いだろう。

ただ、そういう引っ掛かりがなく素直に見ればアメリカの軍隊や架空の軍隊ではなく、「日本の自衛隊」だからこその行動、「日本」にファンタジー世界の扉が開いたからこそ政治的動きなど現代の日本とファンタジーの世界というリアルとファンタジー部分の2つの要素から生まれる「本作品のオリジナル」の面白さがきっちりと感じられるはずだ。

話が積み重なっていくにつれ面白さも増していく作品だ。逆に言えば序盤の段階では淡々と丁寧なストーリー展開ゆえに琴線に触れないかもしれないが、3話、4話あたりまで見てから判断しても遅くないはずだ

ただ自衛隊に対して特別な感情や理念、思想、日本の「自衛隊」という仕組みに対してなにか思うところのある人・・・・もう濁さずに書いてしまうがいわゆる「左翼」「右翼」的な思想が極端に強い人は見ないほうがいいかもしれない。

レビューを書く際に他サイトのコメントや記事なども見たが、「自分の父親が自衛隊でこんな描き方をされたのがショック」などの意見もあった。私個人としてはちょっと極端過ぎる感想だとも思うのだが、そういう意見も生まれる作品であることは否めない。

売り上げ的には1クール目は6000枚前後、2クール目はやや右肩し4500枚前後。売り上げ的には3期が狙えるラインではある。原作で言えばあと2巻、外伝も含めれば2クールできるストックが有るだけに、アニメできちんと完結するところまで見たいと感じる作品だ。 

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