。「闇遊戯」というもうひとりの人格との戦いを経て、日常を取り戻したかに見えた武藤遊戯。しかし、そんな遊戯の前に謎めいた少年・藍神が現れ、世界中で謎の失踪事件が相次ぐ。
海馬王、これは15年前のデュエリストたちに送る作品
遊戯王生誕20周年作品と銘打っており、声優などに変更は一切ない。
監督は桑原智、脚本は原作者、高橋和希。
見だして感じるのは・・・遊戯王らしさだろう(笑)
冒頭から謎の宇宙の描写がされ、無駄に豪華な演出で描かれる宇宙の映像、
そうかと思えば海馬が地球を見下げながら宇宙ステーションらしき場所で、
「千年パズル」を目の前に佇んでいる。
この1シーンを想像するだけでも遊戯王ファンなら
「なんだそれw見たい!」と思うはずだ。
更にデュエル。
闇遊戯(アテム)と海馬の戦いが早々に描かれる、
迫力あふれるCGで描かれるデュエルの模様はまさに
15年前テレビの前で彼らのデュエルの様子を手に汗握って
見ていた自分を思い出すように、ワクワクが止まらない。
海馬の「ドロー」の一声で爆笑し、遊戯の変わらない声で感動を覚える。
この作品はかつて初代遊戯王を楽しんだ人に送る、
初代遊戯王ファンのための映画と言っても過言ではない。
それはデュエルの描写にも現れている。
一言で言ってしまえば細かいルール描写は無視である(笑)
特に今回導入された新たなデュエル方式である「次元領域デュエル」は
デュエリストの精神力によって召喚するため生け贄を必要としない。
精神力が高ければモンスターの能力をマックスで引き出せるという
ルールもクソもないデュエルである。
ちなみに遊戯も海馬も常にステータスMAXで召喚するため、
このデュエルは生け贄召喚ルールをなくすためだけのものである(苦笑)
感覚としては「バトルシティ編」が描かれる前の何でもありな感じのデュエルだ。
だからこそ現在のデュエルモンスターズで導入されている
新しいルールや召喚方法は一切この作品にはなく、
初代遊戯王から、その後の遊戯王シリーズやデュエルモンスターズに
触れていなくてもすんなりと自然にデュエルを楽しめるようにできている。
何でもありだからこそ面白い。
遊戯王の初期のノリ全快で描かれるデュエルの模様は
若干強引さはあるものの、その強引さを覆い隠すほど素直に面白い。
なにせ何でもあり、言ったもんがちに近いデュエルだからこそ
地面から海馬が「オベリスクの巨神兵」を召喚したりする(笑)
思わず、そう来たか!と叫びたくなってしまうほど素晴らしいバトル演出だ。
ある種ファンサービスに近いデュエルもあるものの、
かつて遊戯王を楽しんだ人ならばワクワクが止まらないデュエルの模様は
なぜか無駄に感動を覚えるほど素晴らしい。
モンスターの描写のレベルも上がっている。
恐らく潤沢過ぎる予算をモンスターの描写と海馬社長の動きに使ったんじゃないかと
思うほど、1体1体のモンスターの迫力が素晴らしく、
前述したオベリスクの巨神兵やブルーアイズの数々、
ブラック・マジシャン、ブラック・マジシャンガールズetc…
一体一体の描写が本当にド迫力だ。
懐かしいモンスターの数々や進化した懐かしいモンスターたちの新しい姿に
いちいちテンションが上ってしまう。
初代遊戯王をリアルタイムで楽しんだからこそ、
朝おもちゃ屋さんの前で入荷したカードを並んで買ったからこそ、
この面白さはダイレクトに伝わるのだろう。
基本的に10ターン以内で決着がつくデュエルであり、
そのおかげで非常にサクサクと進む。
なにせ1ターン目からブルーアイズ、ブラック・マジシャンは当たり前だ。
どんだけ引きが良いんだとか突っ込んではいけない。
むしろ引きが良すぎるぐらいがちょうどいい。
モンスターの効果やトラップの効果、魔法の効果など
あまり長い説明がなくざっくりとした説明のため、
余計にバトルのテンポも上がっている。
対戦カードとしてはファンならば納得だろう。
冒頭の海馬VS闇遊戯、更に海馬VS映画オリジナルキャラ、
映画オリジナルキャラVS遊戯、遊戯VS海馬、海馬&遊戯VS映画オリジナルキャラと
5回行われるデュエルを2時間という尺の中で存分に味わうことができ、
1つ1つのデュエルが本当に面白い。
城之内戦がなかったのが個人的には少し残念ではある。
そしてストーリー。
原作者が関わっていることもあり、かなり自然なストーリー展開だ。
時系列的に原作最終話の後という感じになっており、
更にそこに「8つ目の千年アイテム」を追加することで
ストーリーを作り上げている。
序盤は本当に初期の遊戯王の印象が強い。
ベタベタな青春ラブコメのような杏と遊戯の関係性、
青臭すぎる感じのする学園ストーリー、
そこに関わる「闇のアイテム」による若干残酷にも見える描写。
残念ながら「闇のゲーム」こそ無いものの、
新しい千年アイテムの力がそれに近いシーンを作り上げており、
古臭さすら感じる不良の描写と、その不良に罰を与える描写が
かつての闇遊戯との闇のゲームの末路を彷彿とさせ、
本当に原作の序盤を読んでいるような感覚になる序盤だ。
だが今回、遊戯王ではあるものの、はっきいいって「海馬王」である(苦笑)
序盤は本来の主人公である遊戯がほとんと描かれず、海馬ばかりが描写される。
闇遊戯に対して未練のある海馬が「闇遊戯」を復活させるために
ありとあらゆる策を講じる模様は色々な意味で面白い。
自分の記憶の中の闇遊戯を具現化したり、
千年パズルを再度掘り起こし組み立てて復活させようとしたり、
最終的には冥界へ自らが赴いたりと、
闇遊戯ともう1度デュエルをするための海馬のストーリーと言っても過言ではない。
だからこそ映画オリジナルキャラが霞む。
8つ目の千年アイテム、シャーディー及びバクラに関係するキャラとして
悪くはないのだが、彼のストーリーや回想が若干長く、しつこい。
主人公の遊戯よりも描写が長いと感じる部分が多く、
映画のストーリーをつくり上げるためには仕方ないのだが、
演じている方もプロの声優ではないため演技で厳しい部分が多い。
だが、そんな映画オリジナルキャラでダレてしまうそうになる部分を
すぐに海馬社長の「奇行の数々」でダレにはしない。
ある意味、ネタキャラ化したとも言えなくもないのだが、
変身シーンのようなものがあったり、敵の千年アイテムの攻撃を無効化したり、
もはや何を言っているかわからないと思うが全て事実である(笑)
全体的に見て実にファンサービス溢れる作品だったといえるだろう。
かつて初代遊戯王を楽しんだ人のためだけに送る、
細かいルール無視の豪快なデュエルの数々、
ファンサービス的なキャラクターの描写の数々、
「初代遊戯王」の面白さをぎゅ!と詰め込んだ作品だ。
欠点を言うならば映画オリジナルキャラの魅力の薄さと、
若干デュエルがサクサクと進みすぎていることだろう。
特に最後のデュエルは最大の盛り上がり所でもいいはずなのだが、
意外とあっさりと謎の決着が付いてしまい、
それまでのデュエルに比べるとやや物足りない。
しかし、それを除けばファンならば確実に楽しめる作品だ。
デュエルのルールやモンスター効果を敢えてあまり細かく描写せず、
強烈なデュエリストの「引き」によってサクサク進むデュエルは
デュエルシーンの盛り上がりだけを詰め込んだような内容になっており、
サクサクとした展開にしたからこそ5つのデュエルを映画の中で描けている。
ストーリー的には主人公は遊戯ではなく海馬に近いが、
だが、だからこそ物語が常にテンションマックスで描かれているとも言える。
恐らくだが海馬のセリフの6割位が「叫び」である(苦笑)
演じている津田健次郎さんの演技の素晴らしさに感服せざる得ないほど、
1つ1つのセリフをテンションマックスで叫ぶように言い放つ姿は
まさに「海馬瀬戸」というキャラの魅力そのものだ。
ただ「ドロー」と言っているだけである。
だが、演じている津田健次郎氏の全力全開のドローの一声は
ドローするたびに笑ってしまうほど素晴らしい(笑)
まだ遊戯を演じている風間俊介さんもあの頃のままだ。
本当に15年前の雰囲気そのままにアフターストーリーを味わえる。
最初から最後まで遊戯王ファンならば確実に楽しめる作品だ。
その反面で初代遊戯王をリアルタイムで楽しんでいない人にとっては
この面白さはいまいち伝わりにくい部分も多いだろう。
だが、割りきった作りだからこそ、ストレートにファンにとって
面白い作品に仕上がっていると言える。
細かい部分で気になるところがないといえば嘘になるが、
だが、それを覆い隠すほど「遊戯王」の魅力が詰まっている。
かつて遊戯王を楽しんだ人ならば間違いなく楽しめる、
そう断言できるほど遊戯王愛に満ちあふれている作品といえるだろう。
個人的にはオベリスクの巨神兵が出てきて感動してしまった。
これが闇遊戯が出てきて使うならばここまで感動はしなかったかもしれないが、
海馬があの場所であのギリギリの所であの演出で地面から召喚し、
「モンスターではない、神だ!」と言い放つあのシーンは
しばらく思い返しただけででも笑えそうだ(笑)
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