楽しい、楽しいんだ。やっと…生きてる!
没後50年を迎えた「江戸川乱歩」の作品を原案としており、
設定を現代に移したオリジナルアニメ作品だ。
監督は岸誠二、アニメーション制作はLerche
あえて作品のレビューを書く前に書いてしまうが、
私は「江戸川乱歩」が好きだ
本の虫だった私は小学生の時に江戸川乱歩の作品を読んで色々な意味で衝撃を受けた
「江戸川乱歩」という名前は知らないという人は少ないだろう。
作品自体を読んだことがなくても名前くらいは聞いたことがあるはずだ
作品を読んだことがない人に簡単に「江戸川乱歩」の作品を
説明するならば、エログロだ。
濃厚な「ドロッ」っとしたグロテスクさと、そのグロテスクさから漂う「エロス」。
そんな江戸川乱歩を原案にしたアニメを「ノイタミナ」でやる。
過去にも江戸川乱歩の作品を実写映画化されたことがあるが、
原案ではあるものの初の「アニメ化」だ。
私の見る前の「期待感」は必然的にかなり上がってしまった(苦笑)
見だして感じるのは「雰囲気作り」のうまさだろう。
舞台を現代に移し、冒頭から「モノクロ」の背景、
影しか描かれないモブキャラクター、流れるピアノの旋律。
思わず「ゾクッ」っとするような1話の冒頭から刺激的なOPへと繋がる。
どんな内容なのか、何が描かれるのか。
そんなものが1話の冒頭3分では一切わからない
しかしOPが終わった直後に「ばらばらになった死体」が主人公の前に
衝撃的な形で現れることで見る前から抱いている「期待感」が折られること無く、
ゾクゾクした鳥肌の感覚を維持できる。
まるで1ページ1ページ、本をめくるような感じだ。
この作品の登場人物は「コバヤシ少年」以外どんなキャラであろうとも
最初は「モブキャラクター」=影絵として描かれる。
小説と同じだ、文章で人物のが外見や特徴が描写されて初めて
読者はその「人物」を認識できるのと同じだ
「コバヤシ少年」を通し、「コバヤシ少年」が「認識」したキャラクターが
初めて物語の中の「登場人物」として視聴者の目の前に現れる。
一言二言しかしゃべれないキャラクターの外見など男か女かだけで
外見の詳しい描写は小説ではされない、モブキャラの説明など不要だからだ。
この「小説的登場人物」の登場のさせ方の演出は本好きであればたまらない感覚だ
「コバヤシ少年」という読者の視点をきっちりと見ている側にも意識させることで、
物語への「没入感」が素晴らしく、一気に作品の世界観に飲み込まれる。
そして、飲み込まれた後に「拒絶」される
「江戸川乱歩」作品の登場人物は基本的に狂ってる。
普通の人間というには難しい、社会不適合者が多い。
そんな「江戸川乱歩」作品を原案にしているからこそ、
この作品のキャラクターたちには簡単に「感情移入」なんてものはさせてくれない
特に「コバヤシ」。
彼は今流行の男の娘のような外見と声だ、女子ではないのが不思議なくらいの
耽美的な少年であり、江戸川乱歩を知らなければ
狙った「今流行の男の娘ね」で終わってしまう可能性が高い。
「江戸川乱歩」は耽美的な少年が好きだった
もっとはっきり言おう、江戸川乱歩はショタコンだ(笑)
原作での「コバヤシ少年」も女装に違和感のない少年だったことを考えれば
違和感はない。
しかし、彼を男の娘としてはいるものの、「彼」は狂っている
目の前で残酷にバラバラにされている死体があって、
自分が「容疑者」にされ凶器まで握らされていたのに
叫びもしない、泣きもしない、むしろ「楽しそう」だ。
クラスメイトに「犯人」として疑われながらも
「犯人見つければいいよね!」と明るく話し、
壊れたいと笑顔で言う彼の目は純粋で真っ直ぐだ。
これが普通の「男子生徒」として描かれれば、
狂ったキャラクター設定だけが尖ってしまったが、
「男の娘」とすることで、その尖ったキャラクター設定が少しだけ和らぎ、
その「和らいだ部分」に視聴者を誘い込むことで、
感情移入はできないが、作品の世界観に引きずり込まれるような感覚になる。
この作品の「江戸川乱歩」作品の捉え方は面白い。
江戸川乱歩の原作を再現するのではなく「違った視点」で描くことで、
新しい面白さが生まれている。
特にわかりやすいのは1話~2話で描かれる「人間椅子」。
原案の江戸川乱歩が描いた「人間椅子」は
コンプレックスのある「椅子職人」が自ら「椅子」となり、
女性が「自分の上に座る」感覚に溺れるという話だ。
自らに座っている女性に手紙を送りつけるなどの「奇行」で
ゾクゾクとした感覚になり「オチ」でホッっとさせられる。
この作品における「人間椅子」は、人間を「椅子」にする願望の持ち主だ。
M的な原案に対し、S的な捉え方をしたアニメとなっており
江戸川乱歩の「原案」を別の見方で描く「if」的なオリジナストーリーが面白い。
江戸川乱歩特有の「事件の特異さ」と「犯人の動機」はしっかりとあり、
愛ゆえの、欲望ゆえの、事件の数々と犯人たちの「ぶっ飛んだセリフ」や
オチは江戸川乱歩らしさしっかりと作品で表現している作品だ
江戸川乱歩という作品は人を選ぶ作品だ。
一言で言えば「エログロ」っちくな事件や狂気的な人物描写は人を選ぶ。
その「人を選ぶ」拒絶感はアニメにもあるものの、
良い意味でその「拒絶感」を原作とは違った形で表現することで
感情移入はできないが作品の世界観には入り込める。
原案の江戸川乱歩作品の場合「感情移入」してしまったら最後だ、
世界観に取り込まれるような感覚になる
自分もまた乱歩作品の登場人物のような「性癖」を持っているのではないかと。
こういった部分で作品としての「圧」こそ、原案にはもちろん叶わないが
アニメという娯楽作品に「江戸川乱歩」という作品のテイストは
崩さずにうまく落とし込んでいるといえる
それゆえに「江戸川乱歩」という作品のテイストを
知らないと楽しみにくい部分もある。
江戸川乱歩はミステリー作家ではあるものの
「トリック」というものにあまり重きを置いていない。
どちらかというと「犯罪心理学」的な犯罪者の動機の描写の方に重きをおいている
アニメもまた同じだ。
「名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」のような作品とは違い、
どちらかといえば「PSYCHO-PASS サイコパス」に近い。
「江戸川乱歩」という作品を読んで「江戸川乱歩」という作家の特徴を知らないと
決定的な証拠もないミステリーアニメに見えて肩透かしを食らってしまうだろう
更に言えば、ここまで色々な部分を褒めたレビューを書いてしまっているのだが
この評価は「5話」までだ。
前半から中盤までは「江戸川乱歩」原案らしい話を展開しており、
江戸川乱歩を読んでいないとわかりづらい部分や好みが別れる部分はあったものの
江戸川乱歩原案という期待を裏切らない作品だった。
しかしながら中盤、特に終盤の展開はなぜそうなったという感じが強い。
1クール、しかも全11話という尺で作品の起承転結を作るために
「江戸川乱歩原案?なにそれ美味しいの?」と言わんばかりの
あまりにも「世界観を広げすぎた」展開になってしまう。
中盤以降は江戸川乱歩らしい残虐な殺人も、変態的嗜好の事件もない。
「二十面相」を模倣した犯人達が法律で捌けない悪人を私的にさばいており、
ゾクゾクと現れる「模倣者」に対し、探偵役である明智小五郎は原因は
とある「数式」と言い放つ。この「数式」が全ての原因だ。
この「数式」は未来予測から結果の誘発ができるようなものだ。
数式通り世の中が動き、数式通りの結果が生まれる。
統計理論の理想のような数式だ。
これが別の作品で「数式」に関連するミステリー作品ならば
また違ったかもしれないが、「江戸川乱歩原案」の作品で
唐突に「謎の数式」が話の中心となってしまっている。
その数式も1話から出てきていれば話が違ったが
中盤になっていきなり出てきて話の中心になってしまい、
「江戸川乱歩」テイストが完璧に失われる。
終盤は唐突にアニメ制作者が「我」を出しすぎた展開や雰囲気になってしまっている
簡単に言うと物語の前半と後半がからみ合っておらず、
前半と後半でそれぞれ別作品のような感じだ。
もっと分かりやすく言えば前半はグロい金田一少年の事件簿で
後半は酷く浅いサイコパスを見ているような感覚になってしまう。
後半から話の中心に出て来る人物の描写も「過去回想」ばかりで面白みにかけ、
もうすぐ最終回を迎える間際にもかかわらず、
1話丸々終盤から話に絡んでくる人物の過去回想に使ってしまう。
そこに「乱歩」らしさも「面白さ」もない。
思わず「何がしたいんだ」と思うほど面白みに欠けてしまっていた
全体的に見て、もったいない作品だ。
前半は「江戸川乱歩」テイストあふれる演出や事件、人物描写になっており
好みこそ大きく別れる部分はあるが、好きな人にとってはたまらない内容だ
しかしながら後半は「1クールでストーリーを締める」展開になってしまっており、
そのせいで「江戸川乱歩原案」らしさのないストーリーと、
1クール全11話という尺ゆえの描写の甘さが目立ってしまっていた。
「よくわからないが数式」など持ち出さずに、
狂気的な殺人事件の中で最初から狂っている「コバヤシ少年」の変化を
描ければ面白かったかもしれないが、
「アケチコゴロウ」を活躍させようとして話の雰囲気が変わってしまった感じだ
最終話も「描かれていることの壮大さ」の割には面白さや緊迫感がなく、
ストーリーを広げまくった割には拍子抜けな感じの終わり方だ。
サブキャラクターの変化も薄く、
明らかに「何か」ありそうなキャラが何もない。
あの癖のあるキャラを活かした話をもっと見たかった
1クールと言う尺ゆえの活かしきれていない部分も多く、
その活かしきれていない部分を活かさずに「江戸川乱歩」無視の
我を出しすぎた終盤の展開はもどかしさといらだちを感じてしまう。
中盤までの出来栄えば悪くなかっただけに、余計にもどかしさは強い。
終わった後に「ん~・・・なんだかな~・・・」と思わず、つぶやてしまう作品だ
個人的にテイストは嫌いじゃなかっただけに残念でならない。
ある意味でこの歯がゆい感じは「ノイタミナ」らしいとも言えるのだが、
いい意味の方での「ノイタミナ」らしさを出せる要素が多かっただけに、
もどかしい。
売り上げ的には1000枚前後といわゆる爆死。
展開的に2期もできなくはない感じで終わっていたが、
おそらくは無理だろう。
歯がゆさだけが強く残る作品だった
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