さすがは京アニ!青春アニメに大切なのは没入感だ!
原作は武田綾乃による小説作品。
見だして感じるのは「さすが、京都アニメーション」と言いたくなるほどの作画。
光と影、思わずそんなわかりやすい表現が出て来るほど
キャラクターに当てる「ライティング」をきっちりと考え、
少し暗がりの中でキャラクターの表情を視聴者に見せつける。
瞳の描き方、泣いている表情、繊細な髪やまつげの動き、
ほんの「3分」ほどの冒頭のシーンで一気にこの作品に飲まれる。
その飲み込まれた作品の世界観にがっつりと足を掴まれる。
アニメを見ている間の視聴者の「現実感」をどこかにさらわれたような気分になるほど
一挙一動のキャラクターの動きの描写が圧倒的で、
些細な動き、些細な表情、些細な行動、
本当に他のアニメならなんてことないシーンのはずなのに、
この作品はそんな些細なシーンのこだわりが素晴らしく、
作品の世界観に見ている最中にがっつりと没入してしまう。
その要因は作画のレベルの高さだけではない。
「生々しいキャラクター描写」だ。
京都アニメーションという会社はどちらからというと「萌え」に特化した
日常&青春アニメを作ってきた。
「けいおん!」「中二病でも恋がしたい!」などわかりやすい「萌え」が存在し
そのキャラクターをしっかりと描くことで青春ストーリーを描いていた
しかし、この作品はある種、京アニの「新機軸」と言っても過言ではない。
確かにキャラクターデザインは今までの京アニ作品らしいデザインだが、
キャラクター描写が「萌え」ではなく、純粋な「可愛さ」として表現されており
萌ではない純粋な可愛らしさを一人ひとりのキャラクターの中にしっかりと内包し
それを高いレベルの作画と細かい動きの演出で
萌えではない真っ直ぐな「可愛さ」を生んでいる。
更に丁寧なストーリー展開。
京都アニメーションといえば「けいおん!」だが、
そんな「けいおん!」の反省をこの作品では活かしている。
あの作品で最大の懸念事項といえば「巧すぎる」ということだろう。
練習風景があまりないのに、演奏がうまい。
そういった批判をこの作品はきちんと取り込み、
恐ろしいほど丁寧に「吹奏楽部」を描いている。
「軽音楽部」は少ない人数でできる。
だが「吹奏楽部」は多くの人数で構成されるゆえに群像劇だ
高校に入学し吹奏楽部に入る、キャラクター一人一人の「担当楽器」を決め
部活全体の目標を決める。
丁寧に・・・いや、丁寧すぎるくらいに一歩一歩確実に「吹奏楽部」を描いている。
群像劇だからこそ一人ひとりの練習風景をきちんと描き、
その練習の成果をきちんと実感させるストーリー構成になっている。
文章にすれば「2行」ほどで説明できるストーリー構成だ、
だが、群像劇であるがゆえにそんな単純なストーリー構成の中に
圧倒的な「人間描写」が含まれている
これは私の経験と偏見からくる個人的な意見だ。
吹奏楽部というのは「陰険」と「陰湿」である。
女性が多いことから生まれる多数のグループ構成と嫉妬から生まれる人間関係、
更にそこに一人の男子部員なんかいたら余計に関係性はこじれる
そんな環境だからこそ「ドロッ」っとした空気感や雰囲気を醸し出しており、
そんな環境だからこそ「競争心」が生まれ完成度の高いものに仕上がっていく部活、
というのが私の個人的すぎる偏見から生まれる「吹奏楽部」というのものだ。
この作品はそんな「ドロッ」っとした部分を逃げずに描いている。
「吹奏楽部楽しいですよー、可愛い女の子でキャピキャピですよー」という
表面上の部活説明のようなものだけをアニメ化しているのではない。
きちんと「吹奏楽部」の光と影を「群像劇」として生々しく描いている
1話で可愛らしいキャラクター、楽しそうな吹奏楽部を描いたかと終えば
2話の後半からは少し雰囲気が「重く」なる。
女子特有の「めんどくさい」人間関係、周りくどい意思疎通。
キャラクター同士の交流、会話がどこか「壁」があり曝け出さない。
明るい部分を描いたかと思えば暗い部分を描き、
暗い部分を描いたかとも思えば更に暗い部分も描く。
特に「顧問の先生」は素晴らしいキャラクターだ。
笑顔で生徒を「煽っていく」キャラクターであり、
聞くに堪えない、大会に参加しなくてもいいなど辛辣な言葉を
笑顔でストレートに生徒たちにぶつける。
そのせいで部活全体が「重く」なり、重くなった結果、人間関係もドロッとしだす。
私はシリアスな作品ももちろん好きだ、
シリアスな作品を見るときはシリアスな気持ちになるものだ
しかし、この作品はシリアスなのに思わず「笑って」しまう
あまりにも生々しい「吹奏楽部」のドロドロした描写が、
あまりにもリアルで、あまりにも「そう!そう!吹奏楽部ってそんな感じ!」と
不思議と「シリアスな気持ち」ではなく、笑ってしまう。
ドロドロすればするほど、人間関係が険悪になればなるほど
待ってましたという感覚が沸き起こる。
主人公が敵に必殺技を放つときのように、
ラブコメで曲がり角でヒロインとぶつかるときのように、
シリアスなシーンがシリアスであればほど不思議な面白さが滲み出す。
シリアスシーンが面白いからこそ、
青春群像劇における「成長」のシーンが際立つ。
大きく盛り上がるわけではない、何か大きなイベントが起こるわけではない
ドロドロした人間関係の中、必死に楽器を練習し「合奏」を披露する。
文章にすれば1行ほどの内容を丁寧に描くことで、
きっちりとキャラクターの「成長」を見ている側に実感させる
何気ない表情や動作でキャラクターの可愛さをしっかりと描写し
明るい部分を描きつつ、可愛らしいキャラクターが
ドロドロとしたシリアスな吹奏楽部のストーリーを展開するからこそ
メリハリがつき、1つ1つのシーンの印象が強まる。
そんな1つ1つのシーンがしっかりしている状態で
「制作側が見せたいシーン」のシーンの時の破壊力は素晴らしい物がある。
ただキャラクターが髪をかき上げただけだ。ただのキャラクターの私服だ。
そんな何気ないシーンを思わず「見惚れる」ようなシーンに仕上げており
キャラクターの印象が更にぐっと強まる。
何気ないサブキャラクターもしっかりと描き分けられており、
存在感の薄かったキャラクターも何気ないシーンでいきなり際立ち、
いつのまにか「吹奏楽部」のキャラクターたちを覚えている。
そんなキャラクターの印象付けに後押ししているのは声優だ。
メインのキャラクターたちは新人声優さんたちが目立つものの、
主人公を演じている「黒沢ともよ」さんの独特の声質は
ナレーションの時など妙に耳に残り、癖はあるものの印象がしっかりと残る
更に脇役をきちんとした演技のできる声優さんで固めることで
新人の声優だけでは難しい「雰囲気」と作品の「圧」を醸し出している。
個人的に新人ともベテランとも言いがたいのだが、
山岡ゆりさんの演技が本当に素晴らしかった。
彼女が演じるキャラクターの心理描写は絶妙で
憧れの先輩とうまい演奏をする後輩との間でゆれ動く気持ちから生まれる
「泣き」の演技が思わず見惚れ聞き惚れる素晴らしい演技だった
欠点を言うならばストーリーが淡々としすぎているという事だろう。
生々しくリアルな青春ストーリーであるがゆえに、吹奏楽部という部活であるがゆえに
盛り上がりどころともいうべき「イベント」が少ない
アニメでありがちなイベント、いわゆる水着やお風呂といった閑話休題的な話もない
ひたすら真っすぐに淡々と吹奏楽部の話を描いている。
だからこそ話の盛り上がりが薄く淡々とした感じが強い。
だが、そんなたんたんとしているストーリー展開だからこそ
キャラクターの心理描写が際立ち、ドロっとしたシリアスシーンを堪能できる
だが、人によっては淡々としすぎていて退屈に感じてしまうかもしれない
青春+吹奏楽部+リアルという組み合わせだからこそ仕方ないのだが、
好みが分かれる部分も大きい。
更にいうと中盤以降、やや百合っぽさがます。
ガチガチな同性愛表現ではなく「距離感」の近い女の子同士という描写ではあるものの
若干、狙った感じの百合描写もあり
そういった部分の好みは別れるところだろう。
全体的に見て好みの分かれる作品ではある。
淡々としたストーリー展開、ドロっとした生々しいシリアス展開、百合描写、
だが、そういった部分に「ピタッ」と好みにハマれば
この作品ほど楽しめる作品はそうはないだろう。
ニヤついてしまうほどいのドロドロとした生々しい人間関係から生まれる青春群像劇、
淡々としたストーリーではあるものの淡々としているからこそ
キャラクターの心理描写とキャラクターへの感情移入をしっかりとする事ができる
吹奏楽部という人数の多い群像劇で一人ひとりのキャラクターの印象がしっかり残る。
これは京都アニメーションだからこその「作画」から生まれる雰囲気作りと
優秀なキャラクターデザインから生まれるキャラクターだからこそなせる技であり、
全く同じ内容を別の製作会社が作っても
これほどまで「一人ひとり」のキャラクターが印象に残ることはなかっただろう。
その分、主人公の印象が若干薄い感じはあるものの
主張しすぎない主人公と印象に残るサブキャラクターたちが
しっかりと「吹奏楽部」という雰囲気を作りあげ、
しっかりとした雰囲気という名の土台があるからこそ
真っ直ぐで淡々とした青春ストーリーが光る。
ただ残念なことにストーリー的にはまだまだ続く感じで終わっている
一応区切りはついているものの、原作がまだ続いていることもあり
消化不良な感じで終わってしまっている。
1クールではなく最後まできっちり描き2クール構成で見たかったという感じもある
丁寧で淡々なストーリー展開だからこそ2クールという尺が生きたはずだが
1クールという短い尺のせいであと一歩消化不良な感じが残ったのは残念だ
しかし、2期及び劇場版に期待するところが大きい
売り上げ的に8500枚前後と悪くない
京都アニメーションは売り上げ関係なく劇場版をやったりするので
十分に2期も劇場版を狙えるラインだろう。
がっつりと2期を2クール、もしくはぎゅっとまとめて全国編を劇場版で・・・
どのパターンでもぜひ、この続きが見たいと思える作品だ
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