「犯罪」という名のボーイ・ミーツ・ガール
監督は渡辺信一郎、アニメーション制作はMAPPA
音楽は菅野よう子。
見出して感じるのは期待感だろう。
特に1話冒頭の「核燃料再利用施設」の描写と日本という舞台で始まる「テロ」の描写。
まるで濃厚なサスペンスドラマや実写映画でも始まるかのような
期待感を煽る、流れるような「テロ」の描写が見ている側に強くこの作品の先を期待させ、
同時に「この作品は面白そうだ!」とストレートに感じさせてくれる
そして、そんなテロを犯した2人が学園生活を送るところから話が始まる
彼らが何故テロを行うのか。
断片的な回想シーンで視聴者は「断片的につなぎ合わせ」ながら彼らのテロを見続ける
猟奇的犯罪、天才的犯罪、計画性のある犯罪は犯罪ではあるものの一種の「蠱惑」さがあり
彼らがテロを行う理由が明確には伝わらないのに、
彼らが行う流れるような完璧なテロリストとしての行動に魅了される。
実写的な演出、実写的なカメラアングル、アニメ的ではあるがどこか生々しいキャラクターと
キャラクターの表情がアニメでありながらテロの行動を生々しく感じることができる
これが実写映画なら生々しすぎたかもしれない。
だが「アニメ」というフィルターを通して描かれる学生によるテロが
犯罪の蠱惑さを引き出しており、見ているものを釘付けにする。
1話の段階で、たった2人で「都庁」を爆破するシーンなど一種の爽快感すら感じるほどだ
そんな彼らのテロに視聴者と同じ立場の存在が居る。
いわゆるヒロイン的存在ではあるが、いじめられており、世の中に不満があり、
便所飯をするような暗い少女だ。
だが、彼女がとあるきっかけで彼らの「共犯者」になることで物語がより深くなり、
より生々しく、より蠱惑的な魅力を醸し出している
ヒロインは普通の少女だ、だが共犯者になることで普通の少女ではなくなる。
いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」ともいえる要素ではあるのだが、
それが異世界やSFやファンタジー的要素ではなく「犯罪」という名のボーイ・ミーツ・ガールが
作品としての新鮮さとオリジナル性を強く感じさせる
更に彼らのテロ予告。
YOUTUBEを使ったYOUTUBERのような動画でテロ予告し、Tor、仮想通貨などのワードも出てくる
そして彼らは爆破する場所を「なぞなぞ」で提示する
彼らが何故、そんなに回りくどいテロ予告を行うのか、なぜテロを行うのか
序盤の段階でしっかりと視聴者に物語への疑問を感じさせることで
物語の展開が気になって仕方なくなってくる
そこに「優秀な刑事」が1人いることで物語が適度に締まる。
彼らが出すナゾナゾを解く頭脳を持ちながら脚で彼らの人間性を探る
クールでニヒルで渋い刑事でありながら、時折感情を爆発させる彼が
彼らの「テロ」に刑事として立ち向かう
1話~5話くらいまでこの作品は素晴らしい期待感と面白さを秘めていた。
ここからどうなるのか?敷かれた伏線と謎をどう回収するのか?
物語の「起承転結」の「起承」の部分の完成度は素晴らしいものだ
だが、この作品は「転」の部分で失敗してしまっている。
中盤からデスノートで言えば「L」のような存在が出てくる。
テロリストの彼ら以上にテロリストらしい行動をとる「ハイブ」という少女、
だが、彼女はFBI所属。正義にいながら彼らを捕まえるために平気で悪を行う。
しかし、ソレがまったくもって面白くない
テロリスト2人の過去や彼らがどういう行動をするのか、
そして刑事がそれにどう対向するのかが見たいのに、
「ハイブ」という少女が現れてから、彼女に振り回されているだけのストーリー展開になる
ハイブという少女が天才的であるのはわかるが、そこに魅力がない
物語の中盤で彼女が出てしまうことでメインだったはずのテロリスト2人の魅力が落ち、
彼らがなぜテロ行動を行うのかも見ている側には伝わっていないのに、
行動理由すらわからない2人の上をいき、邪魔をするハイブという存在が現れたことで
物語が「希釈」されたような感覚になる。いわゆる引き伸ばしだ。
序盤のテロでも「死人が出ていない」と恐ろしく拍子抜けな事も明らかにされ、
彼らがテロを行っていながら「死人は出したくない」という甘すぎる行動理由で
ハイブとの頭脳戦が描かれるため余計にズレた感じになってしまう。
序盤でせっかく2人のテロリストの「華麗なる犯罪」に蠱惑さを感じていたのに
拍子抜けだ。
不殺主義を持つテロリストなど、テロリストとは呼べないうえに、
なぜ不殺を貫くのか、なぜテロを行うのかもハイブが出たせいで中々明らかにならない。
テロリスト2人、ヒロイン1人、刑事1人。
この4人だけで序盤から中盤まではしっかりと物語が始まり、
中盤からその物語を膨らませ、綺麗にたたむだけでよかった。
だが、膨らみかけたところで「ハイブ」という名の針で爆発させられ
序盤から中盤までの面白さをひっくり返されたような気分だ
そもそも頭脳戦が全く面白くない。
序盤は「軽いノリのYOUTUBER的ナゾナゾ」という問題と
それを解き明かす「柴崎」という刑事のキャラクターの魅力のおかげで面白さが出ていた。
だが、「ハイブ」と彼らの頭脳戦は空港でよく分からない流れのチェスをするだけ、
更にその描写や演出が甘いせいで「頭脳戦」が全く見ている側に伝わらず
「なんかやってる」ぐらいにしか感じない。
ただ単純に「ハイブ」は好き放題にテロリスト2人とゲームを楽しんでるだけに過ぎず
そこに「犯罪の魅力」を感じない
ハイブ自体も結局終盤で勝手に退場してしまい、物語で必要だったのか?と感じてしまうほど
作品を引っ掻き回した割には何とも微妙な最後だ
存在感の割には存在理由が薄い。
結局、序盤で期待していた2人の「過去」も
終盤で「もうすぐ最終話なので全部明かします」と言っているが如くあっさりと明かされる
こういったサスペンスにおいて物語の最大の謎や伏線の回収は見せ方が悪ければ
どんな設定も謎もつまらなくなってしまう。
そういった意味でこの作品の見せ方は最悪だ。
最終回の展開も悪くはないのだが妙に後味が悪く、
作画やBGM、声優さん達の演技にによる作品の空気感や雰囲気は常に素晴らしいのに
その空気感にふさわしいストーリー展開とはいえなかった
結局思い返すと「何のためのテロだったっけ?」と一瞬考えてしまうほどだ
全体的に見て序盤の段階でハードルを上げすぎた作品だ
序盤から中盤までの華麗なほどのテロの描写、2人の主人公とヒロイン、
そして刑事のキャラクターが良く必然的に「名作」を感じさせるほど
作品に対する評価が上がってしまった。
だが、その上がりすぎた評価にふさわしい展開が中盤以降なく、
逆に拍子抜けするような展開ばかりで期待はずれな感じが強く出てしまっていた
中盤以降、特に終盤の展開は悪くはないのだ。
不殺を貫いた2人のテロリストの最後のテロ、彼らの過去、最終話の展開。
確かに序盤で想像していた名作的展開とは言いがたいものはあるものの
「テロ」を生々しく描いた作品のラストとしては悪くないという出来栄えだ
だが、中盤から出てくる「ハイブ」という少女が物語を引っ掻き回した割には
あっさりと退場してしまい、散々引っ張っていた彼らの過去や行動理由も
物語の重厚さにふさわしくないほど「ふわっ」とした感じに描かれてしまい、
最後までいまいちキャラクターに感情移入しきれないまま終ってしまった感じが強い
広げた風呂敷は大きかったのだが、良くも悪くも小さくまとまってしまった感じが
否めない作品だ
1クールではなく2クールだったら、ふわっとしてしまった部分の描写や
もう一歩踏み込んだキャラクター描写ができたかもしれないが
1クール、全11話では広げた風呂敷に相応しい展開や描写をしきれていなかった
1クールならば「ハイブ」を敵にせず味方か、もしくは登場させないほうが良かっただろう
個人的に雰囲気やテイストは嫌いじゃない作品なだけに期待感が強かったのだが
どうにも中盤から話が小さく小さくなっていってしまい
最終的に「ん~」と唸ってしまう作品だった。
決して嫌いではない、だが大声でこの作品を「面白かった!ぜひ見てくれ!」とは言えない
そして決して駄作でもない。だが名作でもない。
良くも悪くも普通なのだが、描いている内容は普通ではない。
何とも文章として伝えづらい作品だ。
いろいろと描写不足、私の理解不足になている部分も多いのかもしれない
逆にもう1度見なおしたら、展開がわかっているからこその面白みや
最初に見た段階では気づかなかった伏線などで面白さに気づけるかもしれないが
進んでもう1度見たいは思わない。
逆に1クールではなく、2時間の映画などでまとめたほうが
スッキリとした作品だったかもしれない
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