全てはシビュラシステムの手の上、これは続編への布石だ
2期では監督や脚本家に変更があったが、劇場版は一期と同じスタッフになっている
なお本レビューは若干のネタバレを含みます。
見出して感じるのはアクションシーンの素晴らしさだろう。
密入国者たちを捕まえるという冒頭のシーンでこれでもかと動く逮捕劇と
ドミネーターの使い方は流石、劇場版というクォリティの高さだ。
公安のメンバー一人一人の動きと役割をきちんと描写し、
ガンアクションだけでなく宜野座の素晴らしい格闘術も味わうことができる。
これほどグリグリ動く格闘戦は久しぶりに見たと感じるほど
若干気持ち悪いほど動いている(笑)
またメカ描写が素晴らしい。
ドミネーターというもはや見慣れた武器ではあるのだが
劇場のクォリティで描かれたドミネーターの独特な動きが素晴らしく、
また映画での海外でのドローンの戦車的な描写の数々が思わずロボット好きの
琴線に触れそうなほどよく描けており序盤から期待感を煽ってくる
ストーリー的にはテレビシリーズの続きだ。
テロを企てる密入国者を捕まえた公安、
テロリストのメンバーの1人の記憶を覗くと
そこにはテロリストの一員として「狡噛 慎也」の姿があった。
常守朱は彼を追うため試験的にシビュラシステムが投入された国へと向かう。
このあらすじからわかる通り、今回の舞台は日本ではない。
長年内戦が続き、今だにテロが起きている国だ。
今までテレビシリーズでは日本国以外がどうなってるかは明確には描かれていなかった。
日本という国にシビュラシステムというものが導入されているのが
この作品の基本的な世界観と舞台設定だ。
そんな世界観で日本以外の国が描かれるのは新鮮だ。
シビュラシステムで管理されていない国はどこも内戦や宗教戦争が行われており、
シビュラシステムはあるものの一定の平和を日本だけが持っていることを
常守 朱視線で感じることができる。
TVシリーズで多くの視聴者が疑問に感じた「シビュラシステム」の存在価値は
この作品を見ると納得できるだろう。
問題こそあるものの「シビュラシステム」で日本という国は平和は保てている。
平和のために必要なシステムを内戦が続いてた国に試験的に導入されるとどうなるか?
この作品はある種、シビュラシステムの実験的ストーリーとも言える。
今までのTVシリーズはシビュラシステムというシステムの説明とそこにある正義、
さらにその正義の中に存在する悪と正義を逸脱する悪、
そして、その正義から「隠れてしまう」悪を描いていた。
今作はシビュラシステムが無い国にシビュラシステムが導入されたらどうなるのかというのを
非常に丁寧に描いている。
シビュラシステムが導入されているのは国全体ではなくある地域のみだ。
そこにはサイマティックスキャンの順番待ちをする多くの国民と、
テロリストに対して躊躇なくドローンを差し向ける軍隊が存在する。
序盤から中盤まではこの映画の舞台設定と状況、
さらに映画ででてきたキャラクターの描写が中心となっており、かなり淡々としている。
冒頭の逮捕劇を描いた後しばらくアクションシーンもなく、
常守 朱を通して見ている側も状況を理解せねばならず、若干テンポが悪い。
更に言うと海外という設定のためかキャラクターの半分位が英語で喋る。
日本の声優さんが演じているため流暢な英語とはいえず、
日本人が喋った英語ですよ!感が物凄い出てしまっており、
シビュラシステムを介した「翻訳システム」があるのにもかかわらず
英語でしゃべり合ってしまうシーンが多いのは気になるところであり、
英語でしゃべり合ってるからこそテンポが遅く感じてしまう。
ただ飽きさせないようにはしている。
二期の経験から「霜月美佳」は完璧にシビュラの犬と化していたり、
宜野座が髪を後ろで結んでいて誰か一瞬わからなかったり、
朱ちゃんのサービスシーンがあったりと、キャラクターが好きならば楽しめるシーンを
間に挟むことで閑話休題的ではあるものの、おかげでダレはしない。
話が盛り上がってくるのは狡噛 慎也が出てきてからだろう。
恐らく多くのサイコパスファンならば狡噛慎也がどれくらい出てるのか気になるとは思う。
ネタバレ的になるが中盤からばほぼ出ずっぱりなので安心し欲しい。
回想シーンや2期のように朱の妄想で出て来ることはない。
中盤の二人の再開シーンはある意味二人らしく、朱の成長も感じるシーンだ。
再開後に朱が狡噛のタバコを吸う様をいちいち見つめているシーンは、
顔こそ赤らめないものの乙女的な何かを感じてしまい、見てるこっちがにやけてしまう(笑)
今思えばこの中盤が最大の盛り上がりどころだったかもしれない。
今回彼女だけやたらセクシーシーンが多い。
シャワーシーンや着替えるシーンは二回ほどあり、
パンスト越しの下着の描写などやけにフェチズムめいたシーンまである。
他の女性キャラはセクシーシーンはなく、
おそらく多くの視聴者が期待している「霜月 美佳」に対する何かもない。
彼女は劇場版ではブレることなく「シビュラの犬」に徹している
ある意味、徹したからこそ2期で感じた苛立ちはあまり感じない、
むしろ犬すぎて笑えるくらいだ(笑)
極端に言ってしまうと今回、朱と狡噛以外のキャラクターが描かれるシーンが少ない。
舞台が海外だから仕方なくはあるのだか公安メンバーで海外に行くのは朱のみであり、
他のメンバーは日本で待機だ。
冒頭と終盤以外はほとんど公安のメンバーも出てこず、
淡々と「朱」目線で海外の状況を見ているような気分になる。
中盤からようやく話は盛り上がってくる。
シビラシステムが試験的に導入されてはいるが、そこには疑問がある。
正しくシステムが機能しているのかどうか。
政府に反対するテロリストの一味になっている狡噛は、
彼らから、かつてのマキシマのような人物として見られており、
カリスマ的存在になりかけている。
だが、それは本来の狡噛の魅力であり、
あの頃と変わらない彼の台詞回しや行動の数々は見ている側も一種の安心感を感じる。
冒頭で彼が日本に対するテロ行為を行っているのではないか?という疑問があるだけに
安心感とともに中盤からのいつもの「彼」は強いキャラクターの魅力を再確認してしまうほど
素晴らしいキャラクターだ。
しかし、せっかく中盤盛り上がったのに終盤で盛り下がる。
あまりネタバレせずに簡潔に言ってしまえば
「シビュラシステムがある国では何を企もうが全てシビュラシステムの手の上」というのが
わかってしまう映画版だ(苦笑)
海外の独裁者が何を企んでいようが、海外の軍人たちがシビュラシステムをごまかそうとしようが
結局はシビュラシステムというものを導入してしまったが最後、
システムの手のひらの上で踊らされているだけにすぎない。
シビュラシステム自体は確かに有能なシステムであることがこの作品では感じられるが
同時にシビュラシステムの「恐怖」すら感じる内容になっている。
せっかく狡噛が色々頑張ってたのに、せっかく朱が必死に動いていたのに
「余計なことはするな全部わかってる」と言わんばかりに終盤展開してしまい、
あれだけ丁寧に海外の状況の説明や映画のキャラクターの掘り下げをしたのに
あっさりとした展開で終ってしまっている。
淡々とした展開が続いたからこそ、そのフラストレーションが開放されるような
ストーリー展開になっていれば不満には感じなかったかもしれないが、
淡々とフラストレーションを貯めるストーリー展開にしておいて
結局「シビュラシステム」があっさりと覆してしまい拍子抜けした感じが残ってしまった
全体的に見て映画作品としてアクション部分での表現は素晴らしい
特に「格闘術」や2期のように安易にグロに頼らないドミネーターの描写など
大きなスクリーンで見る価値が有るほど素晴らしいアクションシーンとなっており、
SF刑事ものとして見応えのあるシーンになっている。
ただその反面でストーリー的には地味な感じは拭えない。
狡噛と朱の再会と二人の行動やセリフは素晴らしいのだが、
その素晴らしく感じた全てが「シビュラシステム」の
手のひらの上で踊らされているだけになってしまっており、
二人の行動やセリフが素晴らしいだけにあっさりとストーリーの良い所を
「シビュラシステム」が解決してしまうのが歯がゆさを感じてしまう。
恐らくストーリーの印象としてはこれが正しいのだろう。
TVシリーズではシビュラシステムに対する疑問やシステムの穴を感じさせる
ストーリー展開が多かっただけに、
映画版は「完璧なシビュラシステム」の神にも等しい完璧な行動予測の数々を描写している
確かに問題はあるシステムだ、だが、問題はあるけどこれほど完璧なんだというのを
見ている側に感じさせる内容だ。
シビュラシステムが完璧なお陰であっさりと悪役たちが倒されてしまい
悪を倒すのが主人公とヒロインの活躍ではないのが不満に感じてしまう原因だろう。
だが、今作で描くべきはこれで正しいのだ。恐らく「続編」があるのだろう。
今から劇場版を見る方は是非エンドロールの後まで見て欲しい、
常守朱が最後に言うセリフの意味を見終わった後に考えながら本編を思い返して欲しい。
私が続編があると断言してしまうのも分かるはずだ
テレビ1期と2期でシビュラシステムというものを描き、その問題点も描いた。
視聴者もシビュラシステムに対する疑問が強まってる所、
劇場版では完璧とも言える問題のないシビュラシステムの運用を目の当たりにする。
日本以外の国はほとんど戦争をしているという世界観で
平和のための「シビュラシステム」の必要性を多くの視聴者が感じるはずだ
だが、「シビュラシステム」には問題がある。
「シビュラシステム」の真価が問われるのは続編だろう。
問題はあるが平和のためには必要なシステムは本当に必要なのか?不必要なのか?
真価を問うストーリーを続編でぜひ見たい。
そのための布石のための話と考えればこの作品に対する見方は変わるだろう。
逆にこれで続編がなければ地味な作品で終ってしまう。
確かにストーリーは地味な作品だ、だが、その地味な展開から
「劇的な変化」が生まれる続編のために必要なストーリーだと思えば
この作品は楽しめるはずだ。
「シビュラシステム」に必要性は感じてるが問題があることも知っている「常守 朱」
「シビュラシステム」の犬となった「霜月 美佳」、
「シビュラシステム」に居場所のない「狡噛 慎也」
この三者の立場が1期、2期、劇場版という流れで明確に描かれた。
さぁ、次はどうなる。
この三角関係ともいえる3人のキャラクターがどこにたどり着くのか。
シビュラシステムはどうなるのか。
それが描かれる続編という名の完結編があって初めて、この作品の意味が出てくる。
続編にぜひ期待したい。
これで3年たっても5年たっても続編がなければ
点数を下げます(笑)
ちなみに個人的な意見になるが宜野座が可愛かった。
1期から2期でも少し変わった彼だったが劇場版は髪を結んだりするという
謎のファッションセンスに目覚めており、
更に終盤の狡噛に対する態度や朱に対する「え?お前朱スキなん?」と言いたくなるような
セリフや態度は宜野座というキャラクターの魅力をもう1段階上げている描写だった。
続編で彼がまたどんな変貌を遂げるか個人的に気になるところだ。
今から見に行くかどうか迷ってる方はアクションシーンが好きならば見に行く価値はあるだろう。
ただ「続編があってこそ」の淡々としたストーリーであることは否めないため
そういった意味も踏まえて検討していただきたい。
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