オリジナルなき模倣。
原作(士郎正宗)、劇場版(押井守)、S.A.C(神山健治)に続く『第4の攻殻』とされる
監督は黄瀬和哉、制作はProductionIG、
なおキャラクターの声優も一新されており、公安九課設立までのストーリーを描いている
見出して感じるのは違和感だろう。
攻殻機動隊シリーズから声優が一新されており、
TVシリーズの「過去」という時系列ではあるもののやはり違和感は拭えない。
人によっては慣れるまでに時間がかかるかもしれない
キャラクターデザインに関してもTVシリーズと比べるとやや「のっぺり」とした雰囲気になっており
よく言えばアニメ的ではあるのだが、攻殻機動隊らしいキャラクターデザインではない。
作画に関しても「圧倒」される感じがない。
1995年に発売された「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」は
セル画で手描きでありながらすさまじいまでの描き込み具合で圧倒され、
TVシリーズの「攻殻機動隊」では圧倒的な「未来」の描写をCGを駆使して描いていた。
この作画の「圧倒感」は攻殻機動隊シリーズの特徴でもある。
だが、この作品は「のっぺり」しすぎている。
簡単に言うならばいかにもアニメ的なキャラクターデザイン、いかにもアニメ的な動きばかりで
攻殻機動隊らしい生々しい躍動感の動きや、「おぉ!」と唸るようなシーンが少ない。
いかにもなスローやアップの演出、1枚1枚の「作画」を見せたいのは分かるが、
アニメーションとして「魅せる」動きになっておらず「見せる」動きにしかなっていない。
演出が制作側の自己満足で終っており、面白さになっていない
ハッキングシーン、電子世界の描写、どのシーンも2013年に公開された作品なのに
未来感の描写も過去の作品の作画に負けてしまっている。
「ネットの広大さ」というのは攻殻機動隊において1つのテーマだ、
だが、この作品における電脳戦の描写やインターネットの描写に広大さは感じない。
狭い狭い閉じこもった描写でしか無い。
これがTVシリーズなら気にならなかったかもしれない。
だが少なくとも劇場公開された作品でこのレベルの作画はスクリーンで見る価値はない。
そしてキャラクター。はっきりいって別人だ。
TVシリーズ以前の公安九課ができる前の話だからこそキャラクターは若い、
だが、同姓同名の別人としか思えない。
この作品で描かれている「草薙素子」があのメスゴリラの「草薙素子」になるとは
思えないほど女々しく弱い。あまりにも「女性」としての草薙素子を描きすぎている。
それに釣られるように無駄にセクシーシーンが多い、そう無駄だ。
TVシリーズにおける「草薙素子」のセクシー描写は
セクシーではなく「肉体美」の表現としての描写だった。
だが、この作品におけるセクシー描写は最近のアニメにおける「狙った」シーンでしか無く、
そこに魅力を感じないうえに別にセクシーでもない。
脱がせておけばいいというありがちな描写だ。
他のキャラクターも同様だ。
荒巻は基本的に役に立たず、ここぞという時の頼り強さはない。
同じ女とは二度寝ないパズはクールさのかけらもなく、
サイトーはただの裏切り者の小物、ボマーはマヨラーに、
ある意味で「攻殻機動隊」シリーズを見てきたからこそキャラクターの印象はあるが、
攻殻機動隊シリーズを見なければ彼らのキャラクター描写はひどく薄い。
決定的に「若いころだから」という言葉だけでは片付けられないほどキャラクター達が弱い。
若いころだから感情表現も過剰、若いころだから弱い、若いころだからすぐ流される。
そんな「若いころ」という設定にキャラクター描写が引きづられすぎてしまっている。
はっきりいって公安九課のメンバーの優秀さを考えれば
「若い頃から変わらない」ぐらいの強さの描写でも良かったはずだ。
どこで一気にあのレベルまで精神的にも肉体的にも技術的にも強くなるのか。
この作品で描かれたキャラクターの先に公安九課のキャラクターが見えない
個人的な感覚でしか無いかもしれないが、
草薙素子の女々しい「恋人」との描写など、はっきりいって吐き気がするほど
「草薙素子」というキャラクターに合っていない。
人間らしい部分を描きたかったのは分かるが、
この作品にそんな最近の恋愛ドラマのような人物描写は求めていない。
おそらくはこの作品の草薙素子には草薙素子のゴーストが存在しないのだろう。
TVシリーズとの差別化、新しい攻殻機動隊を描きたかったという制作陣の試みは分かる。
だが、それは=「過去の作品」に対する冒涜ではないはずだ
ここまでキャラクターを劣化させなくても描けるはず、
逆にここまでキャラクターを劣化させるなら「公安九課」に拘る必要もなかったはずだ
同じキャラクターであれば過去の作品と比較されて当たり前だ。
世界観の描写も甘い。
特に設定面での描写は攻殻機動隊をたっぷりと楽しんだ方にとっては
「え?そういう設定?」「え?そういう描写?」と引っかかる部分がかなりあるはずだ
その設定がストーリー展開において重用だったりするため余計に
見れば見るほど設定の練り込みの甘さが引っかかってしまう。
その甘い描写と練り込みの浅い設定のせいでストーリーも陳腐だ。
一言で言えば尽く浅い。
「実は真実はこうでした」的な展開が多く、その真実が別に以外でもなんでもない。
裏切りそうなキャラクターが裏切り、裏がありそうなストーリーで裏がある。
見ている側があっさりと予測できるストーリー展開ではいつまでたっても
見ている側がこの作品の世界観に浸ることができない。
はっきりいって攻殻機動隊である必要性がない。
これで攻殻機動隊というタイトルが付いておらず「ARISE」というSFアニメ作品ならば
受け入れることが出来たかもしれないが、
「攻殻機動隊」というタイトルがついているのに攻殻機動隊らしくないストーリー展開と
「士郎正宗」テイストすら感じないSF設定の甘さと世界観の狭さは致命的だ。
最終話ではそれまでに敷いた伏線の回収を始めるが
それまでの流れとは違い、いかにも攻殻機動隊的なテイストのストーリーをいきなり始める
その割には「攻殻機動隊」テイストでしかなく、
色々とゴチャゴチャしたままキャラも使い切れずに終ってしまった印象だ。
全体的に見てこの作品は「攻殻機動隊」の模倣作品でしかない。
攻殻機動隊らしさを求めるあまり攻殻機動隊の模倣のようなテイストしか出来ておらず、
そこに「攻殻機動隊」の模倣キャラクターが活躍する。
だが結局は模倣でしか無く、キャラクターの作画は不安定気味で
アクション部分は「魅せる」動きができていない
確かに作画的には素晴らしいアクションとも言えるのだが、あくまで作画的だ。
アニメーションとして見た時に面白いアクションシーンとはいえない。
原作の士郎正宗というオリジナル、アニメの押井守や神山健治というオリジナル。
彼らが居ない「攻殻機動隊」はまさに「オリジナルなき模倣」だ。
中途半端に模倣にせず、キャラクターデザインと声優を一新したのだから
いっそ全てを一新してしまえば別の評価ができたかもしれない。
だが結局は模倣でしかないこの作品は攻殻機動隊という作品を好きであればあるほど
この作品に対する評価は低いだろう。
TVシリーズ化や劇場化も決まっている作品ではあるが、今のところ不安でしか無い。
個人的には大好きなシリーズなだけに持ち直すことを期待したいが・・・
やっぱり田中敦子さん演ずる「草薙素子」が見たいと思うのは私だけだろうか。
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