車が主人公なのに人間ドラマ?王道だからこそ面白い
車を中心とした乗物を擬人化したキャラクターによって物語が構成されており、
人間は登場しない作品だ。
始まって早々に「演出」に心を轢かれる。
真っ暗なスクリーン、時折映るカーレースの模様、真っ暗な画面の中で「声」が聞こえる。
そして画面が明るくなり声の正体が画面いっぱいに描写される。
声の正体は「真っ赤な車」だ。
この世界では車に意思があり・・・というより人間は居ない。
車だけの車の世界、飛んでる小さな虫すらも車、
そんな世界の中で普通に車が喋るという描写をする前にあえて「真っ暗」な画面で
「声」だけ流す、そしてレースの描写に一気に心を奪われる。
何とも憎い演出だ。
そして音、この作品は車による車のためのレースシーンが多い。
そんな中でレースシーンの描写だけでなく「音」での表現が素晴らしい
唸るエンジン音、タイヤの音、スピードを表現する風切音、
左と右のスピーカーを切り替えながら音の迫力をダイナミックに表現し、
絵だけではなく音でも楽しめるレースを作り上げている。
更に3DCG、レースカー達の「ツルツル」と「テカテカ」とした表面、
クルマたちに意思があるからこその「自由な動き」や
目と口、そして「舌」で表現する表情がコミカルでユニークだ
そんなコミカルな表情を魅せるキャラクターたちが本気でレースをする。
普通の人間が乗る車のレースならありえないような動きを見せるレース模様は
大人が見てもわくわくするほど跳ねるようなレース展開だ
そんな世界観がわずか15分ほどで、しっかりと見ている側に印象付ける。
ストーリー的には「王道」だ。
主人公であるマックイーンは期待のルーキーとしてレースに参加し
名だたるレースカーたちと「同着一位」という結果になった
同着1位になった3台の中から1位を決めるためのレースに出るため
マックイーンはカルフォルニアへと向かう。
だが、その道中で事故が起き、マックイーンは田舎の街で事故を起こしてしまった
という所からストーリーが動き出す。
序盤は非常に派手だ、調子の乗っているマックイーンの性格通りと言わんばかりに
激しいレースを展開し、迫力のあるシーンが多い。
だが、そんな調子の乗っているマックイーンは調子の乗っているがゆえに事件を起こす。
人を信じず一匹狼をきどり、仲間への気遣いがなかったからこそ
彼は事故を起こしてしまい、田舎の警察官に捕まってしまう。
因果応報だ。
ストーリーの展開の1つ1つにきちんとした理由があり、丁寧なストーリー運びがあるからこそ
自然にストーリーに入り込むことができる。
そんな中で自然にキャラクターが「生き生き」と動くことで
よりカーズという作品の世界観が重厚になり、よりストーリーに入り込み、
キャラクターに感情移入することができる。
ストーリー的には王道だ、だが、そんな王道を丁寧に丁寧に積み重ねることで
王道のストーリーを徐々に徐々に盛り上げていく。
ストーリーで大きな事件が起こるのは最初くらいだ。
あとは本当に丁寧に丁寧にキャラクター同士の関係性を深めていき、
丁寧にストーリーを展開していく。
調子の乗っていたマックイーンが田舎のクルマたちと触れ合うことで、自分の考えを見直していく。
一匹狼を気取っていた自分、仲間を信じなかった自分、
丁寧に展開するストーリーの中でマックイーンの成長をしっかりと感じることができる
成長するのはマックイーンだけではない。
田舎に住んでいたクルマたちにもマックイーンがきたことで少しずつ変わっていく
彼が一生懸命直した道路を見て、大きなレースに参加する夢を持つマックイーンを見て、
廃れた田舎の町に事故とはいえ久しぶに訪れた彼の影響を受けていく。
マックイーンは成長した恩返しのごとく、田舎の町に貢献し、
そして彼は「レース」に参加する。
冒頭で描かれたレースに参加するマックイーンと、
最後に描かれるレースに参加するマックイーンは違う。
自分のためだけに走っていたはずのレースが彼は田舎の町の車と触れ合ったことで変わる。
出会った彼らがピットクルーになり、彼らを信頼し、
彼らと過ごした日々で培った「技術」でレースに挑む。
王道のストーリーの中でしっかりと「キャラクターの成長」が描かれることで
大人も子供も楽しめて心にしっかりと残る映画に仕上がっている
よくあるストーリー内容ではあるものの、そんなよくあるストーリーだからこそ面白い。
そして、その王道が最後に少しだけ裏切られる。
成長したからこそ王道に「レースの勝利」では終わらない。
序盤の勝利にこだわったマックイーンではありえなかった展開がラストで訪れることで
マックイーンの成長をしっかりと感じて映画を見終わることができる
全体的に見て完成された作品だった。
王道なストーリーではあるものの、ストーリー構成、テンポ、描写の数々が王道ストーリーを
素直に「面白い」と言わせるストーリーに仕上げるのはさすがはピクサーだ
見終わった後にすっきりと、気持ちのいい気分余韻が残るのも王道らしいところだろう
レースアニメとしてみると少し物足りなさはあるものの
車だけの世界のクルマたちの「成長物語」としてみるとしっかりと面白い作品だ。
サブキャラクターたちもいい味を出している作品だ。
特に「メーター」など最初はバカなだけのキャラクターかとおもいきや、
マックイーンの親友としてしっかりと彼に影響をあたえ、彼自身の夢もきっちりと叶う(笑)
メーターだけではなく他のサブキャラクターも「イキイキ」としており、成長していき
終盤で魅せる彼らの変化はクスクスと笑えるものばかりだ。
そして極めつけはエンドロール。
ピクサー作品が好きな人ならばこのエンドロールだけでも是非身て欲しい。
今までのピクサー作品の登場人物がもし「車」だったらというカーズの世界観で描かれており、
セルフパロディと言わんばかりのカーズピクサー作品はピクサー好きならばたまらないはずだ
そしてそれはピクサー作品の脚本家でもあった「ジョー・ランフト」への追悼の意味もあった事を
あとで調べて知って、少しだけしんみり、ピクサーのスタッフに対する愛情も深く感じることが出来た
基本的に吹き替えでピクサー作品を見ていたため馴染みこそ無かったものの、
数々のピクサー作品に携わった彼に謹んで追悼の意を捧げたい。
エンドロールの後の最後のシーンまで楽しめるピクサー作品らしい作品だった。
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