千年の都・京都。ここでは古来より、人に化けた狸と天狗が、人間に紛れて暮らしていた。 糺ノ森に住む狸の名門・下鴨家の父であり、狸界の頭領「偽右衛門」でもあった総一郎はある年の瀬、人間たちに狸鍋にされ、帰らぬ狸となってしまった。
これもまた阿呆の血のしからしむるところ。狸は鍋になるまで阿呆なのだ
キャラクターデザインにはさよなら絶望先生でお馴染みの久米田康治、
制作は花咲くいろはでお馴染みのP.A.WORKSと異色な組み合わせだ
見だして感じるのは京都の雰囲気の良さだろう。
一匹のたぬきが京都の街を駆けまわるシーンや商店街の雰囲気、
そういった何気ないシーンでの「京都の描写」が素晴らしく、
京都らしい古風ではあるものの、ガヤガヤした感じが良く出ている
細かい部分まで描き込まれているのは流石「P.A.WORKS」といったところだ
そんな素晴らしい背景に久米田康治先生に因るキャラクターデザインのキャラ乗っかる
メインのキャラクター自体は「さよなら絶望先生」よりも癖がなく見やすいデザインになっており
男性キャラが多いが個性豊かで印象に残るキャラデザだ。
ただサブのキャラだったりモブキャラだったりでお馴染みの感じのキャラクデザが出る辺りは
「さよなら絶望先生」が好きな方ならば思わずクスクスっとしてしまう。
女性キャラの「線が細いが独特のエロス」を感じさせるデザインも久米田ファンならばたまらない
そして台詞の掛け合い。
主人公を演じる「櫻井孝宏」、天狗の術を教わった女性を演じる「能登麻美子」、
両者の台詞の掛け合いは最近の「ライトノベル」原作アニメでは味わえない
思わず耳を傾け、耳を傾けたことで思わず画面に集中してしまう
落語を聞いているかのようなリズムのセリフの掛け合いが純粋に面白い。
1話の段階ではストーリーの全体像が見えず、キャラの行動倫理やセリフの意味がよくわからないのだが
新しい出会いから巻き起こるストーリーではなく、過去に何かがあった登場人物たちのストーリーだからこそ
この先どうなるのか、あのセリフはどういうことなのが気になる。
1話の段階で新しい出来事が起こるわけではない、だからこそ「何が起こる」のかが気になる、
作品の雰囲気に飲み込まれるような感覚だ
高いレベルの背景、キャラクターデザイン、そして演技力のある声優による台詞の掛け合いにより
全体像の見えないストーリーが気になって仕方なくなる。
そして序盤から中盤までは「気になった部分」を徐々に紐解いていく
落ちぶれた天狗、天狗の術が使える女性、たぬきの4兄弟と母親、
そんな彼らの日常をたんたんと描きつつ、過去に起こった事件の全貌が徐々にわかっていく
ストーリー自体は淡々としているが「雰囲気」づくりがしっかりしており、
京都にいる天狗とタヌキたちのキャラ描写が素晴らしく、
そんなキャラクターたちの日常描写の淡々としたテンポがちょうどいい。
淡々とした中でも「シーン」としては派手だ。
空飛ぶ座敷を使った納涼会、山に化ける天狗、
淡々とした中に派手なシーンが入ることで不思議なストーリーのテンポになっている。
それこそ本当に「落語調」とでも言わんばかりだ。
毎話、始まる前に落語の枕のように主人公の語りが入るのも気持ちがいい
少し古臭い台詞をかわしつつ淡々と何かが起こり、少し派手なシーンを入れてオチを付ける。
ストーリー構成とテンポそのものが「落語」っぽく仕上げており
毎話毎話、気持ちのいい人情話を聞いているかのような雰囲気だ
ただ登場人物たちがそもも「タヌキ」だったり「天狗」だったりするので
人情話というのはおかしいが(笑)
言葉を変えるなら「情緒あふれるタヌキたちの物語」といったところだろう。
タヌキにはタヌキの事情があり、タヌキにはタヌキなりの生き方がある。
阿呆の血に従いアホをやってみたり、酒をたらふく飲み、家族を作る
だが、狸であるがゆえに「鍋」にサれて人間に食べられることもある。
仕方がない、彼らは狸なのだから。
しかし、そうは割りきっても「鍋」にされた父を思い涙することもある。
そんなタヌキたちやへそ曲がりの天狗、そして能登麻美子演じる「人間」
三者三様に情緒あふれる人情物語を展開している。
特に人間である「弁天」の存在は大きい
彼女は天狗を師にもち、自由に空を飛べる。
主人公のタヌキを「食べちゃいたいくらい好き」という過剰なまでの愛情表現をしながら、
同時に主人公たちの父を食べている、師匠の天狗を樹から落っことしたのも彼女だ
だが、彼女はなぜか憎めない。
飄々と事件の「きっかけ」だけを作り、飄々と主人公を助けたりからかったりする。
敵なのか味方なのかわからない、タヌキに対しての「人間」という立場でこの作品の物語をかき回す。
妖艶な魅力を纏う彼女を「能登麻美子」さんが演じることでなんともいえない色気を醸し出している
全体的に見てストーリー自体は淡々としている。
だが、そのストーリーを京都の背景の中で素晴らしいキャラクター描写と
そこに声優の演技がのっかることでよりキャラクターの魅力を深め、
淡々としたストーリーに1つの作品としての「独特の雰囲気」を産んでおり、
其の独特の雰囲気の中で「派手なシーン」を魅せることで淡々としたストーリーが
独特の雰囲気の中で不思議な面白さを感じさせる。
それが結果として本来なら退屈に感じるかもしれないストーリーをうまく見せていた。
だからこそ「雰囲気」が気に入らない方は面白さを感じにくい。
1つ1つのエピソードがまるで落語のようなテンポで進み
作品全体のエピソードを起承転結でつくり上げる。
このテンポや雰囲気が徐々に面白いと感じられ、中盤まで見ればハマっているような作品だ
作品全体としての話の完成度が高いのだが、1つ1つのエピソードの地味さは惜しい物がある。
だがそれでも作品全体のストーリーは面白い。
徐々に明かされていく過去、徐々に深まっていくキャラ描写、
この両者がストーリーを徐々に盛り上げ、最終話は馬鹿騒ぎで終わる
なんとも阿呆らしく、なんとも化かされたような、狸アニメと呼ぶのに相応しい作品だ。
思わず見た後に「お後がよろしいようで」とつけたくなる、
何年後かにもう1度見たくなるような味わい深い作品だった。
ただ最後まで「弁天」の行動理由や言動がよくわからない(苦笑)
ある意味で彼女らしいのだが、ちょっと理解しかねる部分が多い
その点について説明せずに、説明しないからこそ謎めいているのだが気になる部分でもある。
ヒロインである「海星」もなぜ主人公の前で姿を表さないのかも謎だ
原作小説を読めば引っかかる部分がもう少しわかるかもしれないようなので
今から読んでみたいと思います。
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