大友克洋監督「火要鎮」、森田修平監督「九十九」、安藤裕章監督「GAMBO」、カトキハジメ監督「武器よさらば」の4作品によるオムニバス形式で上映される予定である。また、『SHORT PEACE』の最初に森本晃司監督による「オープニング」アニメーションが流れる。タイトルの由来は大友克洋監督の作品集で、それぞれの作品はいずれも「日本」をテーマにしている。
集え 質アニメ好き
大友克洋監督「火要鎮」、森田修平監督「九十九」、
安藤裕章監督「GAMBO」、カトキハジメ監督「武器よさらば」の4作品によるオムニバス形式の映画。
それぞれの話に繋がりはなく、全68分で1作品あたり15分前後の作品だ
オムニバス形式なので本レビューもそれぞれの作品に焦点を当てつつレビューしたい
まず最初に流れるのは森田修平監督による「九十九」
圧倒的に描き込まれた背景に圧感されつつ、同時に3Dで作られたキャラクターが
背景に比べると浮いているような感覚を覚えてしまうのは残念だ。
しかしながら3Dモデリングにしたことでキャラクターを自由に動かすことができ
その自由さは本作品の「和の美」に生きている
ストーリー的にはにっぽん昔ばなし的な話だ。
旅人が道に迷った山中で祠を見つけ雨宿りをする
しかしそこは「九十九神」のすみかだったという所からストーリーは始まる
物語が始まると美しい色彩に包まれる。
番傘に描かれた和柄模様、着物の美しい柄、屏風に描かれた艶美人と
徹底的に「和の美しさ」と「和の色合い」にこだわった背景や小物は
見ていて見惚れるような、和柄の美しさをひしひしと感じられる作画だ
そんな和柄が描かれているのは屏風だったり番傘だったり着物だったり。
九十九神が宿るほど長く使われたそれらはボロボロ。
そんなボロボロな物を見かねて旅人が華麗に直すさまは動きの小気味よさが加わり
3Dキャラクターにしたことによる動きの軽快さが生きており、
次々と治っていく物が不思議な気持よさを生んでいる。
九十九神に対する感謝と、九十九神をきちんと崇め奉った旅人のオチは
男の背中に綺麗な着物と番傘、そして富士山でシーンを締めるという
なんとも「日本の和」を感じられる作品だった。
4つの作品の中ではこの作品が一番、短編ストーリーとしてはオチがついて
話としても美術的にも面白い。
トップバッターを飾るのにふさわしい作品だったといえるだろう。
次に流れるのは大友克洋監督による「火要鎮」
この作品は流石、大友克洋としか言えないセンスだろう。
この「火要鎮」、巻物絵や浮世絵がそのまま動いたようなアニメーションなのだ(笑)
巻物が開かれたような枠組みの中で、遠いカメラ位置の時は浮世絵のような
キャラクターと背景が激しく動くわけでもなく、自然にそのまま動く。
まるで「動く浮世絵」の怪談のような化かされたような感覚に陥る。
作画的に難しいのかは判断しかねるのだが、このアイデアが素晴らしい。
更に「火の演出」。
火要鎮はそのタイトルの通り火に着眼点が置かれており
江戸時時代の火消しになった男とその男に恋をしている女の話だ。
それ以上でもそれ以下でもないのだが、
ストーリーらしいストーリーは確かにあるのだが他の作品に比べると薄い。
どちらかと言えばこの作品は質アニメに近く、質アニメにふさわしい浮世絵アニメーションと
江戸の街が火に包まれる「火の甘美な美しさ」はゾクゾクっとする感覚を覚える
一面が真っ赤に燃え染まり、火の粉が舞い、煙が辺りを覆い尽くす。
その中で火消し達が水ではない江戸ならではの火の消し方で火消するさまを
大胆に、豪快に、壮観に描く。
このセンスは大友克洋監督ならでだなと思わず思ってしまう作品だ。
ただ同時にストーリー性やキャラクター性が薄いため
質アニメ止まりになってしまったのが残念だ。
次に流れるのは安藤裕章監督による「GAMBO」
鬼と白い熊の戦いを描いているのだが、
ストーリー的なものもあるのだが短編映画では説明不足になってしまっており
短編にしては多い登場キャラクターを上手くさばけているとはいえない。
また他の作品に比べ「グロ」さがあり、
鬼と熊の戦いは血まみれで音響効果もかなり生々しい。
しかし、それが「刺激的」や引くほどの「グロさ」というわけでもなく、
むしろ他の作品の映像に比べてしまうと、
刺激を強めるために安易にグロさに走ってしまった感じが否めない。
ただ少女の願いを叶えようとする熊と欲望に忠実な鬼の
獣同士の野性味溢れる戦いはゾクリとくるものがある。
血みどろになりながら、絡み合いながら、乱暴に、強引に、無理矢理過ぎる戦いは
「獣」ならではの動きを感じさせるシーンだ。
しかし、オチもオチてる感じがなく、
1つの作品を見終わった感じが他の作品に比べ薄く戦い部分以外の面白みはあまりなかった。
描きたいことは分かるのだが、それが画面に描写されていないもどかしさを感じる作品だ
最後に流れるのはカトキハジメ監督による「武器よさらば」
この作品だけ大友克洋氏の読み切り漫画が原作になっている
それだけにストーリーはもちろん、キャラ性、メカニック、オチ、
どれもこれも素晴らしい出来栄えだ。
ストーリー的には廃鉱した未来の日本。
砂漠化してしまった日本で兵器を探す5人組。
そんな5人は廃鉱したビル街で無人兵器とあいまみえることになって・・・
というところからストーリーは始まる
この作品のテーマは言わずもがな「武器」だ。
冒頭から気持ち悪いほどに動く装甲車、装着しているパワードスーツ、
無造作に背負っている武器の数々、
大友克洋の世界観と「カトキハジメ」の素晴らしいメカデザインが見事に融合しており
もう書き込み過ぎなくらい描き込まれているメカの数々は
カトキハジメという言葉に反応してしまう人は見ていてよだれモノだ。
放たれるミサイルと無人兵器によるビームの応酬、無人飛行機をまるで紙飛行機のように飛ばし
砂埃が舞う中でスモーク弾を撃ちかく乱し、爆撃し、
流れるような行き着く暇もないような、瞬きしている間に状況が変わるような
激しいのだが、計算され尽くした武器を持った5人と無人兵器の戦いは
緊張感が最高潮のまま常にあるような感覚を覚える。
もう、私は思わずにやけてしまった(笑)
また声優さんの演技も素晴らしく、実力派の声優だからこそ
短編映画の中でもきっちりと「キャラクター性」を強く感じる演技をしており、
それぞれのキャラクターが生き生きと動き、あっけなく死んでいく。
あっけないまでの死に様は思わず「あ・・・」と言葉が漏れてしまうほどだ。
更にオチも落ちてるんんだか落ちてないんだか中途半端な感じはあるものの
アニメ映画で「股間にモザイク」というシーンで締めているのは
何とも笑ってしまう(笑)
きちんとタイトルである武器よさらばに帰結してる点は素晴らしかった。
全体的に見て4つの作品それぞれ違った味がある。
和の美、火の美しさ、野生、兵器とそれぞれのテーマがしっかりしているため
4つそれぞれ違った面白さがある。
恐らく見る人によって4つそれぞれ好き嫌いがはっきりと別れる作品だろう。
私個人としては九十九と武器よさらばは好きなのだが
質アニメになってしまった「火要鎮」と短編映画に収まっていない「GUMBO」は
あまり好きではないが、人によっては違ってくるはずだ。
しかしながら65分というのは短すぎる。
1作品15分前後で描かれる世界観やストーリーには限界があり、
「九十九」に関しては短編作品の面白さがあったが、
他の作品はもう少し長く見たかった、もう少し長ければまた違った感じが生まれるのに
それが生まれず仕舞いなもどかしさがある。
またオムニバス形式ではあるが4話それぞれ繋がりが無いので
もう少し繋がりが欲しかったと感じてしまうところがある。
しかしながら、良くも悪くも「日本のアニメ」らしい内容だったなと感じる作品集だ
海外で作られたアニメにはない魅力があると言っても過言ではない。
いわゆるアニメ好きには薦めたい作品ではあるのだが、
「劇場スクリーン」で見るからこその作画の迫力や音響効果を感じる部分もあり、
アニメ好きな方には是非映画館で見て欲しいのだが、
1800円で見るのはあまりおすすめしがたい(苦笑)
やはり65分というのはあっけなさを感じてしまった。
これで1500円なら納得できるのだが、300円分の物足りなさを感じてしまう。
女性の方はレディースデイ、男性の方は映画館によって安い日あるのでその日に(笑)
今、見に行こうか迷ってる方はぜひ映画館で、DVDで見ると面白さ半減かもしれません。
短編映画集を映画館で見るのは私としては初めてだったのだが、
他の監督さん達による短編映画集もモットみたいな~と感じてしまう作品だった
あの監督ならどんな短編を描くのか、あの監督ならどんな奇抜な演出をしてくれるのか。
そんな色々な気持ちを彷彿とさせてくれる刺激的な作品だった。
1年に1回こういう短篇集映画が恒例化したら面白いのにな~と
ちょっと思ってます(笑)
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