乗った船が遭難し、行方不明となった船乗りの父と、仕事のためにアメリカに渡ったカメラマンの母を持つ小松崎海は、母の留守中、小松崎家を懸命に切り盛りしていた。
まるで安いメロドラマだ・・・
監督はゲド戦記でお馴染みの「宮崎吾朗」氏。
脚本は宮崎駿氏が担当している
始まって早々、いい意味で出鼻をくじかれる。
街並みが映され一人の少女の朝の支度の様子が映される
ジブリ作品だからと見る前に身構えていた体制を膝かっくんされたような気持ちだ
軽々なリズムで流れる曲が余計にそんな緊張感をほぐす
本作品の舞台は昭和の横浜だ。
そんな中で船乗りの父親が行方不明になり、母親は海外で仕事をしている。
ヒロインである「海」は実家の下宿屋を学生でありながら切り盛りしている真面目な少女だ
そんな真面目な彼女の前に突如として少年が学校の屋根から飛び降りる所から物語は動き出す。
序盤の「部室棟」の描写は流石ジブリと言わざるを得ない。
昭和の学校の色々な部室がまるでおもちゃ箱のようにつめ込まれた部室棟は
いきなりいかつい男が出てきたり、爆発したり、ありとあらゆるものが乱雑に置かれている
埃や湿気の匂いを感じるほど独特の雰囲気ば描写されており
現実の話なのにファンタジーの塔の中を冒険しているようなそんな感覚だ
実際にこんな場所があるならば一度訪れてみたい、そう感じさせる場所だ。
そんな部室棟が壊されようとしており、生徒会長や屋根から飛び降りた少年は
何とか保存しようと学生運動をしている。
物語中盤では「部室棟」の大掃除も描写されるのだが、
序盤であれだけファンタジーな雰囲気のある部室棟が
急に現実になるような、そんな不思議な面白さのあるシーンだ。
掃除をするというだけのシーンをここまで面白く出来るのはジブリならではだろう。
更に徹底的に「昭和」にこだわった描写。
テレビはもちろん白黒、コピー機なんてものはなく、炊飯器ももちろん無い。
昭和の横浜の街並みは今では想像もできないほど穏やかで豊かだ
この「ジブリだからこそ出来る」徹底的な作品の雰囲気の描写は
ストーリーがストレートなだけに効果的に作品の面白さを後押ししている
路面電車が走る中「上を向いて歩こう」が流れるシーンなど懐古心をいじらしくくすぐる。
そんな中で「海」と飛び降りた少年「風間俊」の淡い恋愛がゆっくりとゆっくりと描写される
放課後の新聞部の部室で、二人乗りの自転車で、下校する坂道で、時には垣根越しに。
微妙な二人の距離感が徐々に近づいていき、それが確実に「恋愛」になる展開は
最近忘れていた純粋な気持ちを呼び覚まされるようだ
しかしながら、そんな色々な要素が咬み合わない。
物語の序盤から中盤までは雰囲気やいろいろな要素で楽しめるのだが
話が進めば進むほど面白さが空中分解していくような感覚になる
せっかく淡く良い感じに縮まっていた二人の距離感が
「兄妹かもしれない」という要素のせいで妙な距離感が生まれてしまう
その設定をうまく生かして恋愛が進むのならまだいいのだが、
二人の感情の描写が中盤から急に甘くなってしまい
更にストーリーのテンポも悪くなる。
そのせいで恋愛が「中途半端な状態」でストーリーが進んでいってしまい
モヤモヤしたまま物語の主軸である部室棟の取り壊しを止めてもらうため東京に行くという
いきなり物語の舞台が変わってしまうような違和感を覚える。
その取り壊しもあっさりと解決してしまうので、
せっかく東京までいったのだから、もっと東京の描写がほしいと感じる所だ。
更にそのモヤモヤの原因である「兄妹かもしれない」という要素が
結局は「勘違い」という、劇中の登場人物も言っていたが安っぽいメロドラマのような
例えるなら韓国ドラマのような内容になってしまっており
しかも、その要素があっさりと解決してしまい、
「兄妹かもしれない」という要素は必要だったのか?と感じてしまう。
全体的に起承転結の起承は非常にいいのだが、転結の部分がまるで駄目だ。
淡い恋心、独特の雰囲気を持つ部室棟、活気あふれる学生運動、
この3つが序盤で見ている側に出されるのだが、
その3つがどれもこれも描写が甘く展開が弱いため、中途半端な結末になってしまっている
あまりにもあっけなく映画が終わってしまって1つの作品を見終わった感じが少なすぎる
またセリフも分かりづい点がいくつかあり、あまり視聴者に優しくない。
キャラクター描写に関してもヒロインよりも生徒会長や理事長のほうが
キャラクター付けがしっかりしているため印象に残り、
結局、1年後には登場人物の名前のすべてを忘れてしまいそうなほど印象が薄い。
本来ならもっと印象に残るシーンや印象に残るセリフがあってもおかしくないのだが、
どれもこれも「あっさり」してしまっており、もう1味欲しい所で更に味を抜いてしまう感じだ
ジブリの作画能力があるからこそ見れる作品になっているが、
かなり作画や曲などの雰囲気で救われている部分が多い。
本作品はとてもじゃないが親子で楽しめるような作品ではない。
明らかにターゲット層は30代・・・いや、30代でもへたしたら若い。
40代~60代向けの作品と割り切れば懐古心をくすぐる作品なのかもしれない。
私の年齢では雰囲気は味わえたのだが、懐古心を味わうのは少し難しかった
個人的にこの作品で、宮崎吾朗という監督は悪い意味で癖の強い監督であり、
いい意味で純粋さが足りない監督なんだなとひしひしと感じてしまった
はっきりいえば、別のアニメ制作会社のほうが才能を開花させそうな感じさえする。
恐らく無理だろうがジブリという枠組みから飛び出たほうが
面白い作品を作ってくれそうなそんな予感を感じさせる監督だ。
少なくともゲド戦記よりは随分マシになっているが・・・
次回作では逆にもっと癖を感じさせる作品を見たいと思うのは
ゲド戦記よりもひどい作品が見たいとちょっと思っている
私の邪推なのだろうか(笑)
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