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「100万の命の上に俺は立っている」レビュー

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評価 ☆☆☆☆☆(8点) 全12話

あらすじ 人間嫌いの中学生四谷友助はある日の放課後、唐突に異世界に3人目のプレイヤーとして召喚される。引用- Wikipedia

なろうに対する反骨心

原作は別冊少年マガジンで連載中の漫画作品。
監督は羽原久美子、制作はMAHO FILM。

いらすとや


画像引用元:©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

今作は1話からある意味でやらかしている。
1話は「いらすとや」を使ったものが最速放送で放送された後、
通常の作画での1話が翌週放送された。

原作の5巻が発売されたときに同じことを漫画という媒体で行ったが、
それは1話から見てきた読者に対するものだからネタになる行為だ。
アニメという媒体で、まだこの作品がどんな内容でどんなキャラかを
知らない初見の視聴者に対してやっても何も効果的ではない。

せめてYouTubeで公式でいらすとや版の1話だけが無料公開されるなら、
もしくは、Aパートだけならまだネタとして楽しめたかもしれない。
地上波版の丸々1話をいらすとや版にしてしまうのは
はっきり言って滑っている。

2話ではなぜか「100万回生きたねこ」とコラボして
2話の中にとらねこくんがどこかに隠れていたり、
3話ではプロレスラーの天龍さんが声優として出てくる。

終盤の10話ではエンディングを歌ってる歌手が雪と
戯れている実写EDがあったり、11話ではプリキュアのパロディを
4分半近くしつこくやったり、色々と作中で「面白いことをしよう」を
しようとしているのはわかるものの、
その全てが尽く滑ってしまっている。制作側の面白いが全てつまらない。

おう…


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 1話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

1話冒頭から主人公がイキリまくっている。
異世界と思わしき場所でモンスターを倒しながら薄ら笑いを浮かべつつ、
「俺は一人が好きだ」「あの街が嫌いだ」
「あの街に住む人間どもが大嫌いだ」と自分語りが始まる。

主人公がかっこいいと思わせるような描写ではなく、
反応に困る自分語りでしかなく、どこかダサさすら感じる。
主人公はありがちな陰キャなオタクだ。
ネットゲームは得意だけども現実ではそんな能力が生かされることもなく、
クラスの影に隠れている。

1話から演出の古さも感じさせる。
キャラクターデザイン自体もやや懐かしさを感じるデザインだが、
そんなキャラクターを見せるときに下から上にカメラを動かす。
作画の枚数が限られているがゆえに1枚絵をカメラを動かして
見せる演出が1話からあり、この作品の予算の低さを感じさせる。

主人公はいきなり異世界に召喚され、デスゲームに参加させられる。
どこか「なろう」っぽさを感じるものの、
デスゲーム要素も相まって流行りの要素をかき集めたような
印象を1話から受ける作品だ。

ゆるい


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 2話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

この作品は死んでも仲間が生きてれば30秒ほどで生き返る。
デスゲームなのに「死の緊張感」を序盤はまるで感じず、
作画のレベルも低すぎるがゆえに仲間がモンスターに食われても
ギャグのようにしか見えない。

この手の作品はある程度の作画の質があってこそ雰囲気が生み出せる。
しかし、この作品の作画はシンプルにひどく、
1話1話のテンポも悪く、テンポが悪いがゆえに緊張感も薄まる。

この作品はいわゆる「俺TUEE」な作品ではない。
主人公の職業も農民であり、ゴブリンにすら苦労するレベルだ。
なろう系とは違い、泥臭いまでの戦闘シーンを繰り広げてはいるものの、
そんな泥臭い戦闘シーンの作画が悪いため面白さも半減している。

特に異世界にて仲間の過去の会話を「ログ」という形式で
見れるのだが、このシーンがまったくもって動かない。
そもそもログ自体も物語の中で自然にキャラクターたちの過去や
主人公に対する心象を描くのではなく、キャラたちの過去や
主人公に対する心象を見せるためだけの設定にしかなっていない。
ちなみにログ要素は序盤以降殆ど出てこない。

話を自然に見せるということがこの作品はできていない。特に2話。
大ピンチの中で逃げながら主人公はザコ敵を倒すことでランクを上げる、
するといきなり時間が止まり、緊張感もクソもないギャグ空間のなかで
主人公は「料理人」に転職することができ、
包丁を使い起死回生できましたという展開だ。

ご都合主義の塊だ。
ログで主人公にキャラの過去や心情を見せるのもそうだが、
ザコ敵を倒してランクが上がったのはいいとしても、
時間が止まり、たまたま刃物が使える料理人になり、
仲間を復活させ、勝つことが出来る。

「なろう」とは違うんだ、ご都合主義じゃなく俺ツエーでもなく
泥臭い戦闘で勝つのがこの作品なんだというのを魅せたいのはわかるが、
それがうまくできておらず、結局はご都合主義で
テンポが悪いだけの戦闘シーンになってしまっている。

唐突に入るギャグや主人公のツッコミも滑りまくっており、
作品が仕掛けてくる仕掛けに見てる側が一切はまらない。

ブレ


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 4話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

主人公は「合理的」な性格の設定になっている。
そんな合理主義がたまに顔を見せ「クエストクリア」するために
冷静で、ときに冷酷な選択をする。
それが常にならば彼のキャラクター設定として面白く感じ、
主人公の魅力になるかもしれないが、常にじゃない。

人が変わったようにいきなり冷酷になり、人の命を無視した行動をする。
いわゆる「クズ」みたいな行動や言動をさせたいのはわかるが、
彼の合理的行動とやらが結果的に良い結果につながるとは限らない。

例えば4話で仲間の一人が盗賊に捕まる。
しかし、全員で行くことはなく主人公は単独で別行動を取るという
仲間を見捨てたような選択を取る。
バラバラに行動したほうが合理的だからだ。

しかし、結果的に助けに行った仲間も捕まってしまう。
主人公のパーティーは弱いキャラクターが多く、
1番強いキャラが捕まってる時点で勝ち目などないはずであり、
他の仲間が全員捕まったのも知っているのに主人公は助けに行かない。

合理的な判断ができる主人公ならば助けに行った仲間も
捕まってしまうことは予測できそうなものの、そういう予測はできない。
頭がいいんだか悪いんだかよくわからない主人公の合理的な判断が
合理的に見えないことのほうが多い。

主人公自身もそんなに強くないため、
合理的なイキった態度と見合わず、知的でもない。
主人公の合理的な判断の通りにうまくいったというよりは
いきあたりばったりで結果的にご都合主義でうまくいっただけだ。

異世界という名の現実


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 7話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

主人公は合理的な設定の人間だ。彼はクエストのクリアを
目的としており、生きて帰りたいと思っている。
そのためならば必要であれば仲間も見捨て、異世界の人も
子供であろうが見捨てる。

そんな主人公に対しヒロインの一人は感情的だ。
異世界のモンスターであるゴブリンを殺すことすら躊躇し、
殺してしまったことの実感に恐怖する。
こういった「なろう系」の多くが異世界でモンスターを殺すことを
当たり前のように行う中で彼女は貴重な存在だ。

彼女は異世界でのゲームに参加させられた人間ではあるものの、
主人公とは違い、異世界だからと異世界の住人を見捨てることが出来ない。
そんな彼女の考えを主人公は嘲笑う。

主人公も含め、ある意味で問題を抱えている彼らが
異世界での命がけのゲームの中でどう成長し、変化していくのか
というのがこの作品でやりたいことであることが
中盤くらいになると分かってくる。

こういった描写がおざなりになりがちな「なろう系」に対する
反骨心のようなものを作品全体からひしひしと感じる。
それぞれのキャラにそれぞれの処世術があり、
それを序盤から中盤にかけて描きながら、
異世界でのゲームの中で彼らの考え方の変化と成長を描いている。

進んでるのか進んでないのか


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 7話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

ただ中盤になっても話が進んでるのか進んでないのかいまいちわからない。
彼らはゲームマスターという名の未来人に異世界に召喚され
クエストをクリアして現実に帰るというのを繰り返している。
少しずつではあるものの強くなっているのはわかるものの、
根本的なメインストーリーの部分が進んでるのかがわからない。

そもそもの台詞回しもおかしく、例えば7話で
クエストをクリアするための作戦会議を開く。
その話の流れで主人公が

「うん、別れよう」

と言い放つ。それを聞いたヒロインたちは

「あれ?なんだろう、この告っても居ないやつに振られた感じ」

という反応をする。意味がわからない。
すごく真剣な話をしており、シリアスなムードが流れてるシーンだ。
話の流れからして4人集まって行動するのではなく、
別れて行動してクエストをクリアを目指すというのはわかるはずだ。

それなのになぜか別れ話のような反応をする。
無理やり「ギャグ」を入れよう、「笑えるポイント」を入れようとして
結果的に話の雰囲気を壊し、そのギャグ自体も滑っている。
ギャグとシリアスのメリハリを付けられていない。

回想シーンも多いのだが、その回想シーンは今いるのか?
と思うところで回想が入ったり、その回想も長い。
回想シーンでしかキャラを掘り下げられないのか?と思うほどに
一辺倒なストーリー構成にしかなっていない。

終盤の10話など特にひどく、雪山をただひたすら歩くだけだ。
他のアニメなら15分、下手したら5分くらいで終わらせるようなシーンを
たっぷり30分お届けされるような感覚だ。

合理主義とやらはどこいった


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 12話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

終盤で彼らが異世界、ゲームだと思ってた世界の真実が明らかになる。
実は異世界でもゲームの世界でもなく「並行世界」だったという
見てる側にはどっちでもいい真実だ。

そんな真実を知ると「並行世界」とはいえ
「人を殺してしまった」という事実に驚く。
「合理主義」とやらで他人を犠牲にし、殺すことも躊躇してなかったのに
並行世界だからとわかると「人を殺した..」と驚く主人公の反応に
見てる側の感情は一切ついていかない。

そうかと思えば

「馬鹿はひとり残らず死ねばいい、
本当は人間は価値が低い順に死ねばいいんだ」

とのたまう。

結局、俺たちの戦いはこれからだで終わってしまい、
1期放送前から決まっていた「2期決定」の情報を見せられても、
どうでもいいという感情しか湧き上がってこない作品だった。

総評:100万の命の上でイキっている


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 1話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

全体的に見て作品自体が滑りっぱなしな作品だ。
異世界でデスゲームな状況で主人公たちは決して強くない、
そんな中で泥臭いまでの戦略をたてなんとか戦闘を繰り広げて
生き抜いていくという根本的な設定自体は悪くない。

それぞれの処世術がある、やや問題のある思春期なメインキャラたちが
異世界での交流や行動を通して成長、変化していく物語を
描きたいんだという作品の根幹部分はわかるものの、
浮ついた台詞や違和感のある台詞回しのせいでシリアスとギャグの
メリハリをまるで付けられておらず、キャラに感情移入が出来ない。

ストーリーもテンポが悪く、10話などは雪山をただ進むのみだ。
最初から分割2クールで尺に余裕があったからこその
ストーリー構成だったのかもしれないが、
話としての盛り上がりはほぼなく、
メインキャラが出揃っただけの1期という印象しかない。

作画のレベルも低く、演出も悪い。
制作側が面白いと思って仕掛けた仕掛けが全てダダ滑りしており、
長尺のプリキュアパロディや実写EDなど意味不明でしかない。
本来はもっとかっこよく描かないといけない部分もダサく、
戦闘シーンなど見ていられないレベルでクォリティが低い。

もう少し丁寧に作品が作られていれば
評価できる部分もあったかもしれないが、
いろいろな部分の見せ方が悪すぎる作品だった。

個人的な感想:逆張り


画像引用元:100万の命の上に俺は立っている 7話より
©山川直輝・奈央晃徳・講談社/100万の命の上に俺は立っている製作委員会

なんとなくだが、作品全体から「なろう系」に対する
反骨心のようなものを感じる作品だった。

なろうとは違う、なろうみたいな感じだけどそうじゃない
面白い作品を作りたいという意思を感じる部分が多い。
ただ、それをうまく活かせておらず、
結局は逆張りみたいな感じに終わってしまっている。

分割2クールの2クール目、いや2期がどうなるかはわからないが
せめて作画のクォリティだけはもう少し上げていただきたい所だ。

「」は面白い?つまらない?

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